前回の読み返したら、櫂三和を本気でくっつけていいのかどうかためらってるのがまんま櫂くんに伝染してて軽く冷や汗が流れました。迷い過ぎ(笑)
そして友情に持ってくつもりでネタをざっと考えて書き始めてみたら予定からはどんどん逸れていって本格的に恋が始まってしまいました。なんだこれ。
三和くんマジ恋するオトメン。
“好きだ”
そう言いあったら、関係は変わるのだろうか。
形だけ見れば一般的な「告白」の条件は満たしていて、この場合普通は両想いと言うのかもしれないけれど。
どういう意味で両想いなのか、その感情にどんな名前をつければいいのか、本当のところを言えば、三和はまだ決めあぐねていた。
その理由は、櫂自身が迷っていたせいでもあるのかもしれなかった。
モードチェンジ
結局あの後、どのタイミングで離れたものだか分からなくなって、気まずい感じの空気が漂った矢先に解放されて。
バツの悪そうな顔でこちらを伺う櫂に、少しだけ考えてから、三和は笑ってこう言った。
「また明日な」
その言葉に、ほっとしたような顔で、櫂も同じ様に答えた。
「…ああ、また明日」
それはさっきまでの告白と、あまりにちぐはぐではあったけれど。
今はただ、これまでと同じ何かを壊さないことのほうが、大切な気がしたのだ。
* * *
「…ほんとに寝てやんの」
昼下がりの公園、ベンチに寝転がって堂々と昼寝をしている櫂を前に、三和は呟いた。
カードキャピタルに顔を出してみれば、何やら苛々としているカムイと、それを宥めているアイチから、ミサキが大会に出る出ないのいざこざがあったことを聞いた、その流れで初めて聞いた話だった。櫂はよく、この公園にいるらしい。
結局、ミサキ自身はエミとのファイトか何かで立ち直っていたらしいのだが。
「なんなんだよあいつ!同じチームメイトだっていうのに…」
「はは…」
憤るカムイにフォローのしようがなくて、その場はとりあえず苦笑で誤魔化して、ここに来てみたわけだが。
よくもまぁ、これだけ太陽の照りつける中で眠れるものだ。
(…家、居たくねーのかな)
そんなことを思いながら、櫂の横顔が見える位置に座り込んでみる。
以前アイチ達と自宅まで尾けようとしたら(といっても言いだしたのはカムイだったが)、相当手厳しく追い返されたけれど。
単にテリトリーを荒らされたくないのかとも思っていたが、それ以外の何かがあるのかもしれない。
改めて考えるまでもなく、今の櫂について、三和には知らないことだらけだ。
(…いや、今だけじゃねぇか)
当たり前のように一緒にいた四年前だって、櫂のことなんてちっとも分かってはいなかった。
分かる必要さえ無かったから。
一緒にいて楽しくて、強い櫂が眩しくて、追いかけていればそれでよかった。
櫂が自分をどう思っているのかなんて、知らなくてよかったのだ。
自分が櫂を、どう思っているのかも。
「…かーい?」
小さく呼びかけてみても、そこそこ深く眠っているのか櫂はぴくりともしない。
その割に、櫂の寝顔は普段のとげとげとした態度の延長のようなしかめっつらで、あまり休めていそうには見えなかった。
いつでも闘う準備はできている、そう言わんばかりの身構えたような表情が、今の櫂のデフォルトで。
昔だって柔らかいとは言い難かったけれど、それでもこんな拒絶じみた気配は皆無だったし、教師からは「活発で友達も多い」などと書かれるようなタイプだったのに。
こんな風に変わる何かが、離れていた四年間にあったのだろう。
それを聞き出したいとまでは、三和は思わなかった。話したければ自分から話す、いつか聞いたそのセリフはどこまでも唯我独尊で、それでも櫂は、大切な何かを失くしてはいないように見えたから。
(…実際、アレだったしなぁ…)
思わぬ拍子に聞き出してしまった櫂の内心は、ありていに言えば「ずっと好きだった」という話で。
勢いでそう解釈したまま、こっちの事情なんか構うなと挑発してしまったけれど。
別の意味で、はやまったかもしれないと、正直後で思った。
それこそ、櫂がためらったのと同じ理由で。
櫂を間違わせてしまったのかもしれない、そんな理由で。
「…あ~……」
頭を抱えて呻いてみても、過去は変わらない。
ついでに言えば、後悔とも少し違う。
嘘を言った覚えは今だって無い。あの告白への答えは、あれ以外に返せなかったのは本当の事で。
ただ、抱きしめられて初めて、その感情の意味が、思ったよりもひどく曖昧なものだったことに気付いてしまって。
櫂が迷うには迷うだけの理由があったことに、ようやく思い至ったのだ。
「どーしたもんかなぁ…」
とりとめなく思考を巡らしながら見つめていた先で、不意に櫂と目があった。
「…三和?」
ぼーっとしている間に目を覚ましたらしい。
とっさにリアクションが取れずに、ぎこちない笑顔が浮かぶ。
「よ、よう」
「…なんでこんなところに…」
まだ覚醒しきらないような声で言いながら、櫂が起き上がる。
「そりゃお前の方だろ」
「お前には関係ない」
「え」
以前なら反発するなり普通に返せただろうセリフは、意外にもぐっさりと突き刺さった。
三和が硬直していると、櫂はその顔を暫く見つめて、ふいと目をそらして額を押さえつつ、ぼそりと言った。
「…悪い」
櫂のそれも、意外な反応だった。
「いや」
反射的に言ったけれど、何が返ってくるでもなく気まずい沈黙が落ちる。
そして唐突に、櫂は言った。
「帰る」
「え、おい」
本当にスタスタと帰り始めてしまう櫂を、慌てて追いかける。
「ついてくるな」
振り向きもせずに櫂が言い放つ。
びくっと、立ち止まった三和に遅れること三歩先で、櫂もまた立ち止まった。
振り向いた櫂が見たのは、傷ついたことを隠しきれないままの三和の表情だった。
櫂が、仏頂面のまま三和の元へと引き返してくる。
「わ、わり…」
「謝るな」
複雑な表情で言って、至近距離で立ち止まると、しばらく三和の顔を見つめてから、目を逸らして小さく吐き捨てた。
だから嫌だったんだ。
重なり過ぎた否定形に、今度こそ、こらえきれなかった涙が一粒こぼれた。
「…っ」
自分の反応に戸惑ったのもつかの間。
櫂がこちらを振り向く。
そのまま涙を舐めとられて、戸惑うを通り越してぎょっとした。
「おまっ、何して…」
「気色悪かったか?」
皮肉な笑みで、そんな風に櫂はうそぶいた。
その表情に、三和は目を見張る。
瞳の中に、確かに渦巻く欲望。
そういう意味じゃない、すぐには口に出せないまま自覚した。
関係が変わったかは分からない。
ただもう、感情の色は変わってしまった。
櫂も、自分も。
言ってしまったら引き返せないと、そう言った櫂の読みは正しかった。
「…そんなんじゃねーよ」
涙はもう出なかった。ただ少しだけ、覚悟が足りなかったことは身にしみた。
まさかここまで、櫂の拒絶が辛くなるとは思わなかった。
ここまで、心を持っていかれるなんて。
「…負けず嫌いが」
お前は馬鹿だと言わんばかりの櫂の言葉に、意地で言い返す。
「お前こそ」
もてあましてるくせに。
言葉にしなかったセリフの後半は、それでも伝わったらしかった。
「…かもしれんな」
持て余している。
言葉にしてしまったせいで、歯止めの利かなくなった感情も。
それに抗うことも思いつかないくらいに、心奪われてしまった三和のことも。
(なっさけねぇ…)
今の櫂はひどくアンバランスだ。閉ざされた心の奥に、誰にも踏み込ませたくないのは変わっていない。踏み込まれて自分を保っていられるほど、強くない。それなのに―
(こじ開けちまったんだ、俺は)
誰にも許されるはずのない、許されてはいけないシークレットスペースに、入り込んでしまった。
そこはまだ、入口も出口も無いはずの場所。それは要するに、どこまでも櫂の内側ということだった。
内側に閉じ込めてしまった三和を、他者として拒絶するか、自分として同化するか。引き裂かれる痛みと人格を無化する罪悪感と恐怖の間で、櫂は揺らいでいる。
だから。
(俺はここで、挫けちゃいけない)
櫂をそんな板挟みに追い込んだ事実から、逃げるわけにはいかない。
迷っている櫂を、押すか、引くか。ここから先どうしたいのか、それは自分で考えるしかない。
舐めるなと最初に啖呵を切った、その矜持を貫くために。
わしわしと頭をかいて、三和はこう言った。
「…お前が帰ることねーだろ。邪魔したの俺だし、俺が帰る」
うつむいたままの櫂とのすれ違いざま、振り向かないままで三和は答えた。
「けど櫂、忘れんなよ。俺はもうお前のもんだぜ」
その言葉に、櫂は痛みをこらえるような顔になる。
それはそうだろう。言った三和にも、言われた櫂にも、こんな深さのつながりは、本当はまだ重すぎる。
「…ああ」
だからその返事だけで、今は十分だった。
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ど う し て こ う な っ た
これ最初は膝枕話になる予定だったんだぜ…櫂くんも三和くんも全然そういう風に動いてくれなかったけど(笑)
アニメ本編に全否定されなければ、本編進んだら続き書きたいなーと思います。全否定されなければ(笑)え、もう十分否定されてる?いやあそんなまさか、はは。
そういえば櫂が公園で寝ていてくれたお陰もあってアイチのスピンオフが盛大にアリエナーイになりました。まぁいいや(え)
ちなみにタイトルはつけてからなんか聞き覚えあるなと思ったら、おねツイのSecond Flight(セカンドフライト)を最初誤読してたタイトルでした(笑)うーん、テーマ曲には…部分的にならないこともない気もするけどさすがに苦しいかなー(笑)
たとえ~にじがこ~われ~ても~♪ そらはま~って~いる~♪
追記:タイトル変わりました(爆)続いたらまた出てきます(笑)
pixivからこのサイトにはリンク等を貼っていません。あんな大手SNSからこんなコアなサイトに直接飛べるようにする勇気無いです\(^o^)/
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