リスペクト公式、と言いつつBL・GL妄想上等の色々無節操なのでカオス注意。
お前の正義を、単なるエゴに貶めるな。
↑没セリフ(笑)
1期の2年後、高3櫂くんと中2カムイくんの話。櫂達の進学先が決まる時期、ひょんなことから櫂くんが一人暮らしだって知って隠し事されてたのが腹たったカムイくんが櫂くんちに特攻しかける系。2期完無視のVFサーキットなんてなかった時空です。
高校生組の進学先やら櫂くんのマンション設定やら捏造しまくり\(^o^)/
↑没セリフ(笑)
1期の2年後、高3櫂くんと中2カムイくんの話。櫂達の進学先が決まる時期、ひょんなことから櫂くんが一人暮らしだって知って隠し事されてたのが腹たったカムイくんが櫂くんちに特攻しかける系。2期完無視のVFサーキットなんてなかった時空です。
高校生組の進学先やら櫂くんのマンション設定やら捏造しまくり\(^o^)/
Justice
街路樹の葉もすっかり落ちきって、枝と枝の間から高く透き通る蒼天の覗く冬の日。カムイが通い慣れたカードキャピタルに入店すると、三和が店番のミサキとカウンターで会話しているところだった。
「ねーちゃんがここ出るとは思わなかったなぁ。通えない範囲じゃないだろ?」
「まぁね。でも定期代も馬鹿になんないし、一度離れてみるのもいいかと思ってさ。女子寮あるからちょうどいいかなって」
「女子寮か……」
「なんか変なこと考えてない?」
女子寮という言葉を感慨深げに復唱した三和を、ミサキがジト目で睨んだところに、入ってきたばかりのカムイの声が響く。
「ミサキさん、合格おめでとーございます!」
「ありがと。わざわざそれ言うために来てくれたの?」
「はい!だって仲間じゃないですか!」
意気揚々とした笑顔でカムイが答える。
今日はミサキの志望校の合格発表の日だった。カードキャピタル馴染みの高校三年生の中で、まだ進路が決まっていなかったのはミサキだけだ。晴れての合格を伝えるメールに、カムイは一言お祝いを言おうと駆けつけたのだ。
「しっかし、そうすると見事にバラバラだよなぁ」
下宿先についての途切れた会話を、三和が再開させる。
「あんたはこのまま地元だもんね。櫂も県外出ちゃうし……」
「あいつ、この町に帰ってくる気あんのかねー」
何の気なしの三和のセリフに、カムイが口を挟む。
「?……家族んとこに帰ったりしないのか?」
事情を知らないカムイの疑問に、三和とミサキが顔を見合わせた。
目配せで会話した後、口を開いたのはミサキの方だ。
「……あいつ、もともとこの町で一人暮らししてんのよ。……あたしと同じで、両親いないから」
知り合って三年経とうかという今にして初めて知った事実に、カムイの頭が真っ白になった。
* * *
次の日のこと。
カムイは一人、いつぞやアイチ達と櫂のあとをつけた道を黙々と歩いていた。
From:葛木カムイ
Sub:(No title)
今から行くからお前んち教えろ
From:櫂
Sub:Re:
何の用だ?
From:葛木カムイ
Sub:Re:Re:
それくらい教えてくれたっていいだろ!
携帯メールでそんなやりとりをした後、櫂のアドレスから送られてきたメールには、簡潔に住所だけが記載されていた。櫂に見つかって追い返されて以来、いつの間にか知ろうともしなくなっていた、櫂の帰る場所。
“やっぱりやめようよ、こんなのよくないって”
“何言ってるんですか!住んでるところも知らないんじゃ、友達なんて言えないですよ”
その後成り行きでチームQ4として一緒に戦うことになったけれど、最初は反目することのほうが多くて、アイチやミサキに宥められながらやりあううちに、どこか一線を引いた櫂の付き合い方にも、次第に慣れてしまっていた。
住所を頼りに念のため地図を確認しつつたどりついたのは、もちろんそう遠い場所ではなく、あっけないほど近くにあった知らないマンションを、カムイは少しの間なんとも言えない顔で見上げた。
その近さがまたやけに腹立たしくて、なんか言ってやろうと意気込んでエントランスへと向かったものの。
「ええと……あれ?」
なかなかセキュリティのしっかりしたマンションで、建物内に入るにはインターホンを鳴らさなければならず、そのひと手間にやや毒気を抜かれてしまう。
メールに記された櫂の部屋番号をプッシュすると、ほどなくスピーカーから、くぐもった電子音で声が返ってくる。
『はい』
「俺だけど」
『本当に来たのか』
平坦な声でそんなことを言われて、カムイは声を荒げる。
「来ちゃ悪いかよ!」
『別に。今開けるから、勝手に上がってこい』
言うやいなや、通信がつながっていることを示すノイズがプツッと音を立てて切れた。すぐに目の前の自動ドアが開く。
いちいち外されるタイミングに気分を乱されっぱなしのカムイだったが、負けるもんかと、気合を入れて階段を上がった。
* * *
表札プレートには確かに「櫂」と書かれている。家族で住んでいれば全員分の名前があるだろうそこには、その漢字ひとつきりがぽつんとあるだけだった。
当然ながらまたしてもドアに阻まれ、そこでもう一度インターホンを押すと、返事は無いまま、ほどなくしてドアが開いた。
「……よう」
カードキャピタルで会うときよりもテンションが低そうな櫂が、ぼそりとそう挨拶してくる。
「お、おう!」
気持ち身構えつつ勢いだけで答えたものの、特に意味のないそれに、櫂と見合ったまま固まってしまう。
考えなしに来てみたはいいが、意外に言葉は見つからないものだった。というよりも、来れば文句の一つや二つ思いつくと思ったのに、拍子抜けするほど普通に自分を迎えてくれた櫂に、期待したようには文句は出てこなかった。
しかし櫂は、ドアを開けたまま一人で中に入っていく。
「え、おい!」
どうしていいか分からずにカムイが呼びかけると、櫂が振り向かないままで言った。
「そんなところに突っ立ってないで、さっさと入ってこい」
一瞬きょとんとして、慌てて玄関で靴を脱いだ。
「おじゃまします……」
* * *
カムイがきょろきょろしながら中に入ると、最初に目にとまったのはキッチンだった。小さめの流し台には、普通の家庭のように洗ったコップやら茶碗やらが伏せてある。
(あれ自分でやってんのかな……)
カムイも母親に言われれば手伝いぐらいはするが、それを毎日しているとなると想像もつかない。
そのまま調理台やガスコンロ、冷蔵庫などをしげしげと観察していると、不意に後ろから声が聞こえた。
「腹でも減ったか?」
「うえっ!?」
うっかり存在すら忘れ去っていた櫂のセリフに、カムイは反射的に言い返してしまう。
「そっ、そんなんじゃねーよ!」
構わずに櫂は冷蔵庫の扉をあけた。カムイがいつも見ている自分の冷蔵庫よりいささか小さめのそれは、中身も少しがらんとして見えた。
後ろから伸びてきた櫂の手が、ドアポケットの牛乳パックをおもむろに取り出すと、ガラスコップに注いでごくごくと飲み干した。
(……何やってんだコイツ)
唐突にすぎる行動を怪訝な目で見つめていると、櫂がこちらを向いた。
「お前も飲むか?」
「え?」
「成長期だろ」
確かに中学に入ってカムイの背は伸び始めている。平均より上だろう櫂にはまだ遠くても、こう言っては失礼かもしれないが小柄なアイチにはもう少しで追いつけそうな気がしていた――あくまで希望的観測だったが。
それを気にかけてなのかどうかは知らないが、差し出されたコップに、どうも櫂は自分を客として認識しているらしいということが、カムイにもようやく飲み込めてくる。
「……もらう」
櫂が使ったのとは形の違うガラスコップに注がれた牛乳を手渡されて、櫂の真似をするわけではないが同じように飲み干した。
カムイが空になったコップを返すと、櫂は自分の使った分と一緒に流しに持っていく。
「……ほんとに一人暮らしなんだな」
「戸倉に聞いたらしいな」
「知ってんのか?」
「昨日メールが来た」
カムイの呟きに淡々と答えながら、櫂は洗ったコップを乾燥棚に伏せて水を止めた。
もやもやと方向の定まらない気分にカムイが戸惑っていると、櫂はスタスタと奥のリビングに向かう。
慌てつつもそちらについていくと、部屋の端に転がっていた紺色のシンプルなクッションを投げてよこされた。
「っ!?」
「それでも使え。立ち話もなんだろう」
どうやらその辺に座れということらしい。櫂のほうは慣れた様子でベッドサイドに腰掛けた。
「上から見下ろされんのヤなんだけど」
「我慢しろ」
不満をすげなく却下されて、矛先を見失っていた感情が蘇ってくる。クッションを右手に握りしめて、仁王立ちのままカムイは言った。
「なんで黙ってたんだよ、一人暮らしとか、……両親のこととか」
言いにくそうに付け足した言葉が聞こえているのかいないのか、櫂はいつもの調子で答えた。
「これは俺の問題だ。……お前には関係ない」
伏し目がちな櫂の表情は、立ったままのカムイからは見えにくい。
「……っ、またそれかよ!」
櫂は二言目にはそう言って他者を拒絶する。言われて悲しそうな顔をするのはたいていアイチだったけれど、それを見る度に自分も拒絶されたような気がして腹が立った。もう何度もそれで怒ってきて、けれど一度も受け入れてもらえたことはなくて。
「俺達は、……俺はお前の仲間じゃないのかよ!」
苛立ちに任せてクッションを投げつけた。避けられるでもなく櫂の顔面にヒットしたそれは、さしたるダメージを与えたようには見えない。
噛み締めるような間の後で、おもむろに顔を上げた櫂が、真っ向からカムイを見据える。その視線に不意を打たれて、カムイがたじろぐ。
「……いつかお前は言ったな。俺にとってヴァンガードとは何だと。ならお前にとって、ヴァンガードとは何だ」
それは、カムイが最初に櫂に愛想を尽かす原因になった質問だった。チームメイトのアイチに冷たく当たる櫂が許せなくて、チームなど関係ないという櫂の態度が許せなくて。
けれど結局、櫂の頑なさに勝てないまま逃げ出して、チームのために戦えなかった。
「……仲間と一緒に高みを目指す。仲間が辛かったり大変なとき、支えあう力だ。それが俺のヴァンガードだ!」
「……話にならんな」
「てめぇ……!」
吐き捨てるような櫂の言いざまにカッとなって、カムイは櫂に掴みかかった。勢い押し倒されそうになった櫂が、肘でつっかえるようにしてかろうじて上体を持ちこたえる。カムイが睨みつけた先で、櫂の瞳に宿る光が、水面のように揺れた。
(え……)
カムイは今まで、そこに苛立ちと意志、燃えるような感情しか見たことがなかった。けれど間近に見たそこには、明らかに違うものが宿っている。
動揺したカムイから視線を逸らすように俯いて、櫂は絞りだすように言葉を紡ぐ。
「……三和は俺が引っ越した理由を知っていたし、戸倉には志望校のことを相談されたときに成り行きで話した。それ以外に、俺がこのことを話したことはない」
言葉の脈絡がすぐには分からなかった。乾いた声が、カムイの喉から零れる。
「……何、言って……」
「……それくらい話したくない。……どう話せばいいかわからない。……それを力ずくで聞き出すのが、お前のヴァンガードなのか?」
どこかモノローグめいた重たい響きだった。そんな櫂の言葉が腑に落ちてくると同時に、ゾッとするような感覚がカムイの背筋を走る。今までに経験した、どんな恐怖よりも深い恐怖。
違う。
間違っている。
それは櫂がそう言っているのではなくて――カムイの信条が、カムイの正義がそう告げている。
櫂を掴んでいた手から力が抜ける。
(俺は……)
それが悲しい出来事なのだということは、痛みを伴う記憶かもしれないということは、知っていたつもりだった。けれど頑なに拒絶を張り巡らせる櫂を前にしてしまうと、そのことに思いを馳せるよりも、苛立ちのほうが勝ってしまって。
どうして心を開いてくれないんだ、俺はお前の仲間じゃないのか。
気がつけば櫂を責めていた。それで櫂が――傷つくかもしれないなんて、考えたこともなかったのだ。
「……ごめ……」
「別に謝らなくていい……」
俯いたまま額を押さえてげっそりとした櫂に、何故か謝罪を制されてカムイは戸惑う。
「だって、俺……!」
「この手は使いたくなかった……」
「……聞けよ!?」
櫂がぐったりとしているのは分かっているはずなのに、やはりどうにも無視されている気がしてツッコミ紛いの口調になってしまうのは、今のカムイには如何ともしがたい。
「……聞いてる。お前がどう思おうが俺には関係ない。……お前は別に、間違ってない」
「え?」
思っていることと真逆の言葉を返されて、カムイはそろそろ何度目か分からなくなってきた戸惑いを覚える。櫂のことはずっと分からなかったけれど、ここまで分からないとは正直思いもしなかった。
「俺が……弱いだけだ……」
とうとうエネルギーが切れたのか、櫂が仰向けにベッドに倒れこんだ。
天井を見上げるようにしながら右手で瞳を隠して、ぽつりぽつりと櫂が口を開く。
「仲間だと思ってないわけじゃない。お前は納得しないかもしれないが、妙な気を遣われるよりは、いちいちつっかかってきてくれる方が俺にとっては楽だった。跳ね返すだけでいいんだからな。お前が何も考えてないから、俺も何も考えずにいられたし……」
「今すげー失礼なこと言わなかったか?」
「気のせいだろう」
気のせいではない気がするが、しかしそれがけなすための言葉ではないことはカムイにもわかっている。だからこれは、単なる軽口だ。
「とは言っても……それでやっていけていたのは、アイチ達がいたからだ。いつかは何か言わないと、このままじゃ居られないだろうとは、思ってはいた。きっかけは作れなかったがな」
一気にいろんなことを教えられて、カムイはそろそろ頭が痛くなりそうだった。やっぱりどう聞いても、悪いのは自分のような気がする。浅はかだったとしか言いようがない。
櫂は、カムイが間違っているとは言わなかった。何がどう間違っていないのか、その意味がカムイにはよく分からない。
「だから……」
櫂はそこで言葉を切ると、腹筋の要領で勢いをつけて起き上がった。
「……これ以上は面倒だ。やるぞ」
手にしたデッキを見れば、何をやるのかなど聞くまでもない。
今のカムイにはその分かりやすさがすこぶる痛快で、意気揚々と答えた。
「おう!」
「「スタンドアップ!(ザ・)ヴァンガード!!」」
* * *
――三和の奴が心配してたぜ。お前帰ってくる気ないんじゃないかって。
――あいつがどういうつもりで言ったかは知らんが、さすがに顔を出す気くらいはあるぞ。ここでしか戦えない奴もいるからな。
――俺とか?
――お前は大会にでも出れば会えるだろう。
――!?……はっ、恥ずかしいこと言うなよ!
――先に恥ずかしいことを言ったのはお前だ。
――うっ……。
――………。
――……なぁ、アイチお兄さんには、このこと話すつもりとかあるのか?
――次の下宿が決まったら、その住所を教えがてら何か話そうとは思ってる。
――そっか。……ならいいや。
――ちなみにお前に話す予定はなかった。
――喧嘩売ってんのか。
――話す“つもりが”なかったとは言ってないぞ。結局お前のほうが喧嘩を売ってきたから、ちょうど良かったな。
――なんかムカつく……。
――修行が足りないんだろ。……ファイナルターン!
――まだ終わってねぇ!
――いいや終わりだ。忘れたのか?
――何をだよ!
――より強い相手を求め、勝利する。それが俺のヴァンガード。
――だから!?
――今日のところは……俺の勝ちだ!!
――あ゛ーーーーっ!?マジで負けたーーーーっ!?
fin.
君に逢えて良かった うまくはいえないけれど
ありがとうの言葉さえ 大切すぎて言えないよ
(君に逢えてよかった/林原めぐみ)
・あとがき・
思いついたときはカム櫂だったんですが、普通にファイトされてしまいました。でも既に口論の成り行きがどことなくカム櫂である…櫂くんマジ誘い受け…からの逆転攻め…(笑)
最初は櫂くんの拒絶がもう少し強い予定だったんですが(そして故にカムイくんが暴走するBLだったんですが)、拒絶するのも精神力いるしそこまで強くないかなーと思ってこうなりました。これはこれで櫂くんが普段の信条を曲げて勝ちに行ってるのですが、まぁ闇アイチ戦スタイルということで…。
ぶっちゃけ両親どうこうなんて話を何の脈絡もなく櫂くんが自分からするのはイコール結婚して下さいだと思うので、なんか変ななりゆきがないと話さないんだろうなーと思います。ミサキさんにはこういう理由なら話しそうかなって。
櫂くんの両親の話は今後本編で出てくる予定はあるのだろうか…?
街路樹の葉もすっかり落ちきって、枝と枝の間から高く透き通る蒼天の覗く冬の日。カムイが通い慣れたカードキャピタルに入店すると、三和が店番のミサキとカウンターで会話しているところだった。
「ねーちゃんがここ出るとは思わなかったなぁ。通えない範囲じゃないだろ?」
「まぁね。でも定期代も馬鹿になんないし、一度離れてみるのもいいかと思ってさ。女子寮あるからちょうどいいかなって」
「女子寮か……」
「なんか変なこと考えてない?」
女子寮という言葉を感慨深げに復唱した三和を、ミサキがジト目で睨んだところに、入ってきたばかりのカムイの声が響く。
「ミサキさん、合格おめでとーございます!」
「ありがと。わざわざそれ言うために来てくれたの?」
「はい!だって仲間じゃないですか!」
意気揚々とした笑顔でカムイが答える。
今日はミサキの志望校の合格発表の日だった。カードキャピタル馴染みの高校三年生の中で、まだ進路が決まっていなかったのはミサキだけだ。晴れての合格を伝えるメールに、カムイは一言お祝いを言おうと駆けつけたのだ。
「しっかし、そうすると見事にバラバラだよなぁ」
下宿先についての途切れた会話を、三和が再開させる。
「あんたはこのまま地元だもんね。櫂も県外出ちゃうし……」
「あいつ、この町に帰ってくる気あんのかねー」
何の気なしの三和のセリフに、カムイが口を挟む。
「?……家族んとこに帰ったりしないのか?」
事情を知らないカムイの疑問に、三和とミサキが顔を見合わせた。
目配せで会話した後、口を開いたのはミサキの方だ。
「……あいつ、もともとこの町で一人暮らししてんのよ。……あたしと同じで、両親いないから」
知り合って三年経とうかという今にして初めて知った事実に、カムイの頭が真っ白になった。
* * *
次の日のこと。
カムイは一人、いつぞやアイチ達と櫂のあとをつけた道を黙々と歩いていた。
From:葛木カムイ
Sub:(No title)
今から行くからお前んち教えろ
From:櫂
Sub:Re:
何の用だ?
From:葛木カムイ
Sub:Re:Re:
それくらい教えてくれたっていいだろ!
携帯メールでそんなやりとりをした後、櫂のアドレスから送られてきたメールには、簡潔に住所だけが記載されていた。櫂に見つかって追い返されて以来、いつの間にか知ろうともしなくなっていた、櫂の帰る場所。
“やっぱりやめようよ、こんなのよくないって”
“何言ってるんですか!住んでるところも知らないんじゃ、友達なんて言えないですよ”
その後成り行きでチームQ4として一緒に戦うことになったけれど、最初は反目することのほうが多くて、アイチやミサキに宥められながらやりあううちに、どこか一線を引いた櫂の付き合い方にも、次第に慣れてしまっていた。
住所を頼りに念のため地図を確認しつつたどりついたのは、もちろんそう遠い場所ではなく、あっけないほど近くにあった知らないマンションを、カムイは少しの間なんとも言えない顔で見上げた。
その近さがまたやけに腹立たしくて、なんか言ってやろうと意気込んでエントランスへと向かったものの。
「ええと……あれ?」
なかなかセキュリティのしっかりしたマンションで、建物内に入るにはインターホンを鳴らさなければならず、そのひと手間にやや毒気を抜かれてしまう。
メールに記された櫂の部屋番号をプッシュすると、ほどなくスピーカーから、くぐもった電子音で声が返ってくる。
『はい』
「俺だけど」
『本当に来たのか』
平坦な声でそんなことを言われて、カムイは声を荒げる。
「来ちゃ悪いかよ!」
『別に。今開けるから、勝手に上がってこい』
言うやいなや、通信がつながっていることを示すノイズがプツッと音を立てて切れた。すぐに目の前の自動ドアが開く。
いちいち外されるタイミングに気分を乱されっぱなしのカムイだったが、負けるもんかと、気合を入れて階段を上がった。
* * *
表札プレートには確かに「櫂」と書かれている。家族で住んでいれば全員分の名前があるだろうそこには、その漢字ひとつきりがぽつんとあるだけだった。
当然ながらまたしてもドアに阻まれ、そこでもう一度インターホンを押すと、返事は無いまま、ほどなくしてドアが開いた。
「……よう」
カードキャピタルで会うときよりもテンションが低そうな櫂が、ぼそりとそう挨拶してくる。
「お、おう!」
気持ち身構えつつ勢いだけで答えたものの、特に意味のないそれに、櫂と見合ったまま固まってしまう。
考えなしに来てみたはいいが、意外に言葉は見つからないものだった。というよりも、来れば文句の一つや二つ思いつくと思ったのに、拍子抜けするほど普通に自分を迎えてくれた櫂に、期待したようには文句は出てこなかった。
しかし櫂は、ドアを開けたまま一人で中に入っていく。
「え、おい!」
どうしていいか分からずにカムイが呼びかけると、櫂が振り向かないままで言った。
「そんなところに突っ立ってないで、さっさと入ってこい」
一瞬きょとんとして、慌てて玄関で靴を脱いだ。
「おじゃまします……」
* * *
カムイがきょろきょろしながら中に入ると、最初に目にとまったのはキッチンだった。小さめの流し台には、普通の家庭のように洗ったコップやら茶碗やらが伏せてある。
(あれ自分でやってんのかな……)
カムイも母親に言われれば手伝いぐらいはするが、それを毎日しているとなると想像もつかない。
そのまま調理台やガスコンロ、冷蔵庫などをしげしげと観察していると、不意に後ろから声が聞こえた。
「腹でも減ったか?」
「うえっ!?」
うっかり存在すら忘れ去っていた櫂のセリフに、カムイは反射的に言い返してしまう。
「そっ、そんなんじゃねーよ!」
構わずに櫂は冷蔵庫の扉をあけた。カムイがいつも見ている自分の冷蔵庫よりいささか小さめのそれは、中身も少しがらんとして見えた。
後ろから伸びてきた櫂の手が、ドアポケットの牛乳パックをおもむろに取り出すと、ガラスコップに注いでごくごくと飲み干した。
(……何やってんだコイツ)
唐突にすぎる行動を怪訝な目で見つめていると、櫂がこちらを向いた。
「お前も飲むか?」
「え?」
「成長期だろ」
確かに中学に入ってカムイの背は伸び始めている。平均より上だろう櫂にはまだ遠くても、こう言っては失礼かもしれないが小柄なアイチにはもう少しで追いつけそうな気がしていた――あくまで希望的観測だったが。
それを気にかけてなのかどうかは知らないが、差し出されたコップに、どうも櫂は自分を客として認識しているらしいということが、カムイにもようやく飲み込めてくる。
「……もらう」
櫂が使ったのとは形の違うガラスコップに注がれた牛乳を手渡されて、櫂の真似をするわけではないが同じように飲み干した。
カムイが空になったコップを返すと、櫂は自分の使った分と一緒に流しに持っていく。
「……ほんとに一人暮らしなんだな」
「戸倉に聞いたらしいな」
「知ってんのか?」
「昨日メールが来た」
カムイの呟きに淡々と答えながら、櫂は洗ったコップを乾燥棚に伏せて水を止めた。
もやもやと方向の定まらない気分にカムイが戸惑っていると、櫂はスタスタと奥のリビングに向かう。
慌てつつもそちらについていくと、部屋の端に転がっていた紺色のシンプルなクッションを投げてよこされた。
「っ!?」
「それでも使え。立ち話もなんだろう」
どうやらその辺に座れということらしい。櫂のほうは慣れた様子でベッドサイドに腰掛けた。
「上から見下ろされんのヤなんだけど」
「我慢しろ」
不満をすげなく却下されて、矛先を見失っていた感情が蘇ってくる。クッションを右手に握りしめて、仁王立ちのままカムイは言った。
「なんで黙ってたんだよ、一人暮らしとか、……両親のこととか」
言いにくそうに付け足した言葉が聞こえているのかいないのか、櫂はいつもの調子で答えた。
「これは俺の問題だ。……お前には関係ない」
伏し目がちな櫂の表情は、立ったままのカムイからは見えにくい。
「……っ、またそれかよ!」
櫂は二言目にはそう言って他者を拒絶する。言われて悲しそうな顔をするのはたいていアイチだったけれど、それを見る度に自分も拒絶されたような気がして腹が立った。もう何度もそれで怒ってきて、けれど一度も受け入れてもらえたことはなくて。
「俺達は、……俺はお前の仲間じゃないのかよ!」
苛立ちに任せてクッションを投げつけた。避けられるでもなく櫂の顔面にヒットしたそれは、さしたるダメージを与えたようには見えない。
噛み締めるような間の後で、おもむろに顔を上げた櫂が、真っ向からカムイを見据える。その視線に不意を打たれて、カムイがたじろぐ。
「……いつかお前は言ったな。俺にとってヴァンガードとは何だと。ならお前にとって、ヴァンガードとは何だ」
それは、カムイが最初に櫂に愛想を尽かす原因になった質問だった。チームメイトのアイチに冷たく当たる櫂が許せなくて、チームなど関係ないという櫂の態度が許せなくて。
けれど結局、櫂の頑なさに勝てないまま逃げ出して、チームのために戦えなかった。
「……仲間と一緒に高みを目指す。仲間が辛かったり大変なとき、支えあう力だ。それが俺のヴァンガードだ!」
「……話にならんな」
「てめぇ……!」
吐き捨てるような櫂の言いざまにカッとなって、カムイは櫂に掴みかかった。勢い押し倒されそうになった櫂が、肘でつっかえるようにしてかろうじて上体を持ちこたえる。カムイが睨みつけた先で、櫂の瞳に宿る光が、水面のように揺れた。
(え……)
カムイは今まで、そこに苛立ちと意志、燃えるような感情しか見たことがなかった。けれど間近に見たそこには、明らかに違うものが宿っている。
動揺したカムイから視線を逸らすように俯いて、櫂は絞りだすように言葉を紡ぐ。
「……三和は俺が引っ越した理由を知っていたし、戸倉には志望校のことを相談されたときに成り行きで話した。それ以外に、俺がこのことを話したことはない」
言葉の脈絡がすぐには分からなかった。乾いた声が、カムイの喉から零れる。
「……何、言って……」
「……それくらい話したくない。……どう話せばいいかわからない。……それを力ずくで聞き出すのが、お前のヴァンガードなのか?」
どこかモノローグめいた重たい響きだった。そんな櫂の言葉が腑に落ちてくると同時に、ゾッとするような感覚がカムイの背筋を走る。今までに経験した、どんな恐怖よりも深い恐怖。
違う。
間違っている。
それは櫂がそう言っているのではなくて――カムイの信条が、カムイの正義がそう告げている。
櫂を掴んでいた手から力が抜ける。
(俺は……)
それが悲しい出来事なのだということは、痛みを伴う記憶かもしれないということは、知っていたつもりだった。けれど頑なに拒絶を張り巡らせる櫂を前にしてしまうと、そのことに思いを馳せるよりも、苛立ちのほうが勝ってしまって。
どうして心を開いてくれないんだ、俺はお前の仲間じゃないのか。
気がつけば櫂を責めていた。それで櫂が――傷つくかもしれないなんて、考えたこともなかったのだ。
「……ごめ……」
「別に謝らなくていい……」
俯いたまま額を押さえてげっそりとした櫂に、何故か謝罪を制されてカムイは戸惑う。
「だって、俺……!」
「この手は使いたくなかった……」
「……聞けよ!?」
櫂がぐったりとしているのは分かっているはずなのに、やはりどうにも無視されている気がしてツッコミ紛いの口調になってしまうのは、今のカムイには如何ともしがたい。
「……聞いてる。お前がどう思おうが俺には関係ない。……お前は別に、間違ってない」
「え?」
思っていることと真逆の言葉を返されて、カムイはそろそろ何度目か分からなくなってきた戸惑いを覚える。櫂のことはずっと分からなかったけれど、ここまで分からないとは正直思いもしなかった。
「俺が……弱いだけだ……」
とうとうエネルギーが切れたのか、櫂が仰向けにベッドに倒れこんだ。
天井を見上げるようにしながら右手で瞳を隠して、ぽつりぽつりと櫂が口を開く。
「仲間だと思ってないわけじゃない。お前は納得しないかもしれないが、妙な気を遣われるよりは、いちいちつっかかってきてくれる方が俺にとっては楽だった。跳ね返すだけでいいんだからな。お前が何も考えてないから、俺も何も考えずにいられたし……」
「今すげー失礼なこと言わなかったか?」
「気のせいだろう」
気のせいではない気がするが、しかしそれがけなすための言葉ではないことはカムイにもわかっている。だからこれは、単なる軽口だ。
「とは言っても……それでやっていけていたのは、アイチ達がいたからだ。いつかは何か言わないと、このままじゃ居られないだろうとは、思ってはいた。きっかけは作れなかったがな」
一気にいろんなことを教えられて、カムイはそろそろ頭が痛くなりそうだった。やっぱりどう聞いても、悪いのは自分のような気がする。浅はかだったとしか言いようがない。
櫂は、カムイが間違っているとは言わなかった。何がどう間違っていないのか、その意味がカムイにはよく分からない。
「だから……」
櫂はそこで言葉を切ると、腹筋の要領で勢いをつけて起き上がった。
「……これ以上は面倒だ。やるぞ」
手にしたデッキを見れば、何をやるのかなど聞くまでもない。
今のカムイにはその分かりやすさがすこぶる痛快で、意気揚々と答えた。
「おう!」
「「スタンドアップ!(ザ・)ヴァンガード!!」」
* * *
――三和の奴が心配してたぜ。お前帰ってくる気ないんじゃないかって。
――あいつがどういうつもりで言ったかは知らんが、さすがに顔を出す気くらいはあるぞ。ここでしか戦えない奴もいるからな。
――俺とか?
――お前は大会にでも出れば会えるだろう。
――!?……はっ、恥ずかしいこと言うなよ!
――先に恥ずかしいことを言ったのはお前だ。
――うっ……。
――………。
――……なぁ、アイチお兄さんには、このこと話すつもりとかあるのか?
――次の下宿が決まったら、その住所を教えがてら何か話そうとは思ってる。
――そっか。……ならいいや。
――ちなみにお前に話す予定はなかった。
――喧嘩売ってんのか。
――話す“つもりが”なかったとは言ってないぞ。結局お前のほうが喧嘩を売ってきたから、ちょうど良かったな。
――なんかムカつく……。
――修行が足りないんだろ。……ファイナルターン!
――まだ終わってねぇ!
――いいや終わりだ。忘れたのか?
――何をだよ!
――より強い相手を求め、勝利する。それが俺のヴァンガード。
――だから!?
――今日のところは……俺の勝ちだ!!
――あ゛ーーーーっ!?マジで負けたーーーーっ!?
fin.
君に逢えて良かった うまくはいえないけれど
ありがとうの言葉さえ 大切すぎて言えないよ
(君に逢えてよかった/林原めぐみ)
・あとがき・
思いついたときはカム櫂だったんですが、普通にファイトされてしまいました。でも既に口論の成り行きがどことなくカム櫂である…櫂くんマジ誘い受け…からの逆転攻め…(笑)
最初は櫂くんの拒絶がもう少し強い予定だったんですが(そして故にカムイくんが暴走するBLだったんですが)、拒絶するのも精神力いるしそこまで強くないかなーと思ってこうなりました。これはこれで櫂くんが普段の信条を曲げて勝ちに行ってるのですが、まぁ闇アイチ戦スタイルということで…。
ぶっちゃけ両親どうこうなんて話を何の脈絡もなく櫂くんが自分からするのはイコール結婚して下さいだと思うので、なんか変ななりゆきがないと話さないんだろうなーと思います。ミサキさんにはこういう理由なら話しそうかなって。
櫂くんの両親の話は今後本編で出てくる予定はあるのだろうか…?
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K玲(仮名)のハンドルで主にヴァンガードSSを投稿しています。日記に載せたのを後日修正転載が基本。
pixivからこのサイトにはリンク等を貼っていません。あんな大手SNSからこんなコアなサイトに直接飛べるようにする勇気無いです\(^o^)/
あと最近転載しているTwitterはpixivのプロフから飛べます。非公開中です。なんでそんなめんどくさいことしてるんだなんて聞かないであげてください。コミュニティごとに人格切り替えないとパニックになるタイプなんだよ!!(明らかに最初にpixivとHP切り離したのが敗因)
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