リスペクト公式、と言いつつBL・GL妄想上等の色々無節操なのでカオス注意。
ショタ櫂くんと叔父さんの同居日記みたいなもの。叔父さん100%捏造。叔父さんの名前が不明なため、地の文で人物を示す場合、櫂を「櫂」、叔父さんを「彼」でほぼ固定しているのでやや文章が不自然ですがご容赦ください。(そもそも私の三人称は視点がすぐ一人称にブレるのですが…orz)
合宿回とか見ながらアイチと道を違えた櫂くんの座右の銘は「ひとりでできるもん」とか言ってたら思いついたものの、基本的には前々から思ってた「引越しからレン達と出会うまでの間に櫂くんは学校行ってなかった時期があるに違いない」というイメージを具現化挑戦したら予定から色々斜め上になったシリアス。
小学校で引っ越して中学に転入してるようにしか見えないからその時差埋めようと思ったら思いついた設定でもあるんですが、それがなくても櫂くん根は引きこもりだと思うんですよね…。
叔父さんのイメージが「親になりきれない保護者」なので、人によってはアレかもしれません。櫂くん迎えに来たの叔父さんだけっぽかったしきっと独身で彼女もいないよね。という(爆)
こんなん書いてて櫂誕に取り掛かれなくて、櫂誕間に合うか心配\(^o^)/
とはいえ、地味に櫂くんと誕生日シリーズと同時空のつもりだったりはする…予定は未定。
合宿回とか見ながらアイチと道を違えた櫂くんの座右の銘は「ひとりでできるもん」とか言ってたら思いついたものの、基本的には前々から思ってた「引越しからレン達と出会うまでの間に櫂くんは学校行ってなかった時期があるに違いない」というイメージを具現化挑戦したら予定から色々斜め上になったシリアス。
小学校で引っ越して中学に転入してるようにしか見えないからその時差埋めようと思ったら思いついた設定でもあるんですが、それがなくても櫂くん根は引きこもりだと思うんですよね…。
叔父さんのイメージが「親になりきれない保護者」なので、人によってはアレかもしれません。櫂くん迎えに来たの叔父さんだけっぽかったしきっと独身で彼女もいないよね。という(爆)
こんなん書いてて櫂誕に取り掛かれなくて、櫂誕間に合うか心配\(^o^)/
とはいえ、地味に櫂くんと誕生日シリーズと同時空のつもりだったりはする…予定は未定。
I can do anything alone
両親を亡くした櫂を引き取ったのは、まだ独身の年若い叔父だった。
小学校は転校の手続きをしたものの、ふさぎこんだ櫂は数日通っただけで学校に行きたがらなくなり、代わりにいつも近所の公園やマンションの屋上で、空を見上げていた。
彼が櫂を引き取ったばかりの頃、仕事から帰宅すると家にいるはずの櫂がおらず、慌てて探しに出ると、櫂は一人、公園のベンチでぼんやりと眠っていた。
「おい、トシキ、トシキ」
彼が揺り起こすと、気がついた櫂が眠い目をこする。
「あれ……おじさん?」
「こんなとこで寝てないで、帰るぞ」
無事に見つけた安堵で気の抜けたまま彼がそう言うと、櫂は暫く彼を不思議そうな瞳で見つめて、そのままの瞳で静かに尋ねた。
「……怒らねぇの?」
一瞬、ぎくりとした動揺が胸を刺す。試しているわけではないのだろう。勝手に外出して、そのまま夜になったのも気づかず寝倒して、心配したぞと怒るのが彼の親だった、それだけの話だ。
その代わりになることはできない。幸か不幸か、そう直感してしまった。だから櫂への返答に、迷うことはなかった。
「……お前も男だからな」
一人になりたいときもあるだろう。そう言って彼は、櫂の頭を撫でた。
櫂は納得したように小さく頷いて、二人で家路についた。
* * *
学校に行かないことを除けば、櫂は手のかからない子どものように思えた。余裕があって櫂を預かったわけではなく、ただ櫂を引き取れるような親戚が他に誰もいないからと、見捨てることもできずに半ばヤケで引き取ったようなところもあった彼にとって、落ち込んだせいなのかすっかり大人しくなってしまった櫂は、決して大きな困難をもたらすような存在ではなかった。
大切な人を亡くした哀しみは同じだった。けれどそれに浸っているわけにいかない分だけ、彼よりもよほど大きな存在を失くしてしまっただろう櫂を、そっとしておきたかったのかもしれなかった。
櫂が公園で眠ってしまった日から暫く経ったある日、彼が家に帰ると、キッチンに作った覚えのない夕飯らしきものが散在していた。テーブルの上に卵焼きとサラダ。鍋の中には味噌汁。それがどこから来たのか知っているであろう櫂は、「おかえり」と言ったきり何も言わずにカードを弄んでいる。
「……トシキが作ったのか?」
「……うん」
「凄いな、こんなのが作れるのか」
戸惑いながらそう言って褒めると、喜ぶでもなく櫂はぽつりと答える。
「前に学校で習った……」
その言葉に、彼が硬直した。櫂の口から出た“学校”という単語に、あえて触れていないことに触れざるを得ないのだろうかと、迷いが脳裏をよぎる。
学校に行く代わりに公園で時間を潰すようになった櫂を強く咎めなかったのは、思いつめている櫂にどう接してやればいいのか分からなかったからだ。けれどこんな風に口にするということは、櫂はその場所を、本心で嫌っているわけではないはずだった。
「……学校、どうしても行きたくないか?」
ぴく、と、櫂の体がこわばったのが分かった。
急かすわけにもいかずに、彼は櫂の動向を見守る。
振り向かないまま、俯いたままで、櫂が搾り出す。
「……いやだ」
「……どうして?」
このままではいけないと、漠然と感じる思いに突き動かされて、彼は問いかけた。
けれど櫂が、突然立ち上がって外に向かおうとする。
「トシキ!」
「来るな!」
鋭い制止に感じたのは、言葉とは裏腹の思いだったけれど。
振り向いて投げつけられた言葉に、櫂の目に光る涙に、勢いが殺された。
「男には一人になりたいときがあるって、そう言ったのあんただろ!?」
確かにそう言ったことは覚えているけれど、こんなときに突きつけられるほど櫂が重く受け止めているとは、彼は思っていなかった。
不意打ちに生まれた一瞬の隙をついて、櫂が外へと駆け出す。
まだすぐには動けなかった。彼を呪縛しているのは、櫂の拒絶ではなかった。
(俺は、お前に)
躊躇っている場合ではない、そう分かった瞬間、体は軽くなった。
ドアを開けて出てみると、マンションの廊下に櫂の姿はもう見えなかった。けれどそう遠くヘ行っているわけはないのだ。櫂はまだ、あんなに小さいのだから。
向かったのは上か、下か。多分下だと決めつけて、近所迷惑も顧みずに全速力で廊下を走る。足の速さ、というより長さで負ける気はしないが、運動不足による息切れだけが気がかりだった。
* * *
櫂の後ろ姿を視界に捉えたのは、前にも櫂が寝ていた公園の近くだった。他に逃げ場所を知らない、どこにも行けない櫂の境遇を感じて、胸が張り裂けそうだった。
今度こそ躊躇することなく、彼は櫂の腕を掴んだ。
「……どこ行くんだ」
「離せよ」
櫂の腕を引いて、自分のほうを向かせた。
視線を合わせるようにしゃがみ込んで、俯いた櫂の顔を見上げる。
その腕を解放しても、櫂はもう彼から逃げなかった。
怒っているわけではないことが伝わるようにと願いながら、ゆっくりと問いかける。
「どうして、行きたくないんだ」
尋ねるのは酷だと思った。けれどここで聞かないのは、多分もっと酷なのだ。今これを聞いてやれるのは自分しか居なくて――櫂の保護者を引き受けた以上、聞いてやらなければいけないのだ。
櫂を、ほんとうに独りにしてしまわないために。
櫂の顔が、痛みをこらえるように歪む。
固い表情のまま、櫂はゆっくりと告げた。
「……みんなが、遠い……」
折れそうな体を支えるように両腕で包んで、顔が見えないように肩越しに引き寄せる。
「……どうやって、あの中にいたのか、もう、わかんねぇ……」
それは櫂が、初めて知ってしまった他人との断絶なのだろう。自分とは違う世界に生きる人々。両親の死は、櫂を否応なく他者から引き離してしまった。いや――
(……ごめんな)
それを決定的にしてしまったのは、多分自分だった。
自分にはやるべきことがあるからと、そう言って日常に紛らわせることで対処していた喪失の哀しみ。大人になった自分でさえそうなのに、それよりも遥かに幼い櫂が、その哀しみと一人で向き合い続けることを止めてやらなかった。それが櫂の望みなのだろうと、放っておいてしまった。
本当はきっと、自分こそがそれを望んでいたのだ。哀しみを無かったことにしてしまいたくなかった。誰にも触れてほしくなかった。そんな自分を誤魔化したまま、重すぎる喪失を櫂に押し付けた。
哀しみから逃がしてやるべきなのは、櫂のほうだったのに。
「……父さん、母さん……!」
泣き出した櫂を、うまく抱きしめてやれない。櫂が泣いているところを見たことがなかったけれど、それは泣かなかったのではなくて、泣くことすらできなかったのだと、今更になって思う。
その涙を、その心を、誰も受け止めてやらなかった。
保護者を引き受けた自分でさえ、せいぜい生活の面倒を見るくらいで精一杯だったのだ。
そのことを櫂は、当然のように受け入れてしまっていたけれど。
「……トシキ、後江町に戻りたいと思うか?」
櫂のためにどうしてやればいいのか。そう尋ねると、櫂は弱々しく首を振った。
「……戻るのは、もっと怖い……」
「……そうか。……そうだな」
世界と突然切り離されたような違和感。それを感じてしまうのは、世界ではなく櫂のほうが変わってしまったからだ。慣れ親しんだものであればあるほど、違和感もまた強烈なのだろう。
ならば選ぶ道はひとつだと、今度こそ彼は腹をくくる。
「トシキ」
名前を呼んで両手をその肩に置くと、泣きはらした目の櫂が、それでも涙は見せないでこちらを見つめる。
その気丈な様子に、感じるプレッシャーは相当なものだった。
「……いいか?お前はこの町に、住み始めたばかりだ。周りにお前が知ってる奴は、誰もいない。向こうだって、お前を知らない。遠くて当たり前なんだ」
ゆっくりと、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。そんな風に誰かに話しかけたことは、今までにないような気がした。
櫂がひとつ、小さく頷く。
その反応を確かに受け止めて、彼は続けた。
「……だけどお前は、そこに行かなきゃいけない」
そこに行ったほうがいい、とは言えなかった。一人で閉じこもるよりも、多分櫂はもっと違う誰かと――櫂の哀しみさえ知らない誰かと、触れ合ったほうがいい。失くしたものが戻らないなら、新しいものを手に入れるべきなのだ。どちらに転んでも苦しいのだとしても、喪失の中にうずくまるよりは、その方が道が開く可能性はあるはずだった。
それでもこれは、戦えと言うに等しい言葉なのだ。
「……今すぐにとは言わない。どうせもうすぐ中学に上がるんだ。それからでも、遅くないだろうからな」
厳しい表情で聞いたまま、答えを出せない様子の櫂の頭を、精一杯で優しくなでる。
「……今日はうちに帰ろう。まだ寒いから、このままじゃ風邪引いちまうぞ」
黙って聞いていた櫂が、少しだけ表情を和らげて、小さく答えた。
「……分かった」
多分に二重の意味を持ったその答えを、支えてやりたいと強く思った。
* * *
帰り道、二人で並んで歩きながら、櫂が言った。
「なぁ、いっこだけ……頼んでもいいか?」
「なんだ?」
「……新しいカード、ほしいんだ」
「カード?」
鸚鵡返しに聞き返すと、聞こえているのかいないのか、櫂が呟く。
「……もっと、強くなりたいから……」
言葉は要領を得なかったけれど、それが櫂にとって大切なことなのだということだけは分かって、彼は答えた。
「分かった。じゃあ、次の日曜、二人で買い物に行こうか」
「……うん」
それが二人が、初めて交わした約束だった。
* * *
新しいカードで、新しいデッキが作れたら。
もう一度、学校へいこう。
fin.
+++
↓おまけでその後の櫂くんを綴った叔父さんの日記
http://everybodyhero.blog.shinobi.jp/Entry/388/
両親を亡くした櫂を引き取ったのは、まだ独身の年若い叔父だった。
小学校は転校の手続きをしたものの、ふさぎこんだ櫂は数日通っただけで学校に行きたがらなくなり、代わりにいつも近所の公園やマンションの屋上で、空を見上げていた。
彼が櫂を引き取ったばかりの頃、仕事から帰宅すると家にいるはずの櫂がおらず、慌てて探しに出ると、櫂は一人、公園のベンチでぼんやりと眠っていた。
「おい、トシキ、トシキ」
彼が揺り起こすと、気がついた櫂が眠い目をこする。
「あれ……おじさん?」
「こんなとこで寝てないで、帰るぞ」
無事に見つけた安堵で気の抜けたまま彼がそう言うと、櫂は暫く彼を不思議そうな瞳で見つめて、そのままの瞳で静かに尋ねた。
「……怒らねぇの?」
一瞬、ぎくりとした動揺が胸を刺す。試しているわけではないのだろう。勝手に外出して、そのまま夜になったのも気づかず寝倒して、心配したぞと怒るのが彼の親だった、それだけの話だ。
その代わりになることはできない。幸か不幸か、そう直感してしまった。だから櫂への返答に、迷うことはなかった。
「……お前も男だからな」
一人になりたいときもあるだろう。そう言って彼は、櫂の頭を撫でた。
櫂は納得したように小さく頷いて、二人で家路についた。
* * *
学校に行かないことを除けば、櫂は手のかからない子どものように思えた。余裕があって櫂を預かったわけではなく、ただ櫂を引き取れるような親戚が他に誰もいないからと、見捨てることもできずに半ばヤケで引き取ったようなところもあった彼にとって、落ち込んだせいなのかすっかり大人しくなってしまった櫂は、決して大きな困難をもたらすような存在ではなかった。
大切な人を亡くした哀しみは同じだった。けれどそれに浸っているわけにいかない分だけ、彼よりもよほど大きな存在を失くしてしまっただろう櫂を、そっとしておきたかったのかもしれなかった。
櫂が公園で眠ってしまった日から暫く経ったある日、彼が家に帰ると、キッチンに作った覚えのない夕飯らしきものが散在していた。テーブルの上に卵焼きとサラダ。鍋の中には味噌汁。それがどこから来たのか知っているであろう櫂は、「おかえり」と言ったきり何も言わずにカードを弄んでいる。
「……トシキが作ったのか?」
「……うん」
「凄いな、こんなのが作れるのか」
戸惑いながらそう言って褒めると、喜ぶでもなく櫂はぽつりと答える。
「前に学校で習った……」
その言葉に、彼が硬直した。櫂の口から出た“学校”という単語に、あえて触れていないことに触れざるを得ないのだろうかと、迷いが脳裏をよぎる。
学校に行く代わりに公園で時間を潰すようになった櫂を強く咎めなかったのは、思いつめている櫂にどう接してやればいいのか分からなかったからだ。けれどこんな風に口にするということは、櫂はその場所を、本心で嫌っているわけではないはずだった。
「……学校、どうしても行きたくないか?」
ぴく、と、櫂の体がこわばったのが分かった。
急かすわけにもいかずに、彼は櫂の動向を見守る。
振り向かないまま、俯いたままで、櫂が搾り出す。
「……いやだ」
「……どうして?」
このままではいけないと、漠然と感じる思いに突き動かされて、彼は問いかけた。
けれど櫂が、突然立ち上がって外に向かおうとする。
「トシキ!」
「来るな!」
鋭い制止に感じたのは、言葉とは裏腹の思いだったけれど。
振り向いて投げつけられた言葉に、櫂の目に光る涙に、勢いが殺された。
「男には一人になりたいときがあるって、そう言ったのあんただろ!?」
確かにそう言ったことは覚えているけれど、こんなときに突きつけられるほど櫂が重く受け止めているとは、彼は思っていなかった。
不意打ちに生まれた一瞬の隙をついて、櫂が外へと駆け出す。
まだすぐには動けなかった。彼を呪縛しているのは、櫂の拒絶ではなかった。
(俺は、お前に)
躊躇っている場合ではない、そう分かった瞬間、体は軽くなった。
ドアを開けて出てみると、マンションの廊下に櫂の姿はもう見えなかった。けれどそう遠くヘ行っているわけはないのだ。櫂はまだ、あんなに小さいのだから。
向かったのは上か、下か。多分下だと決めつけて、近所迷惑も顧みずに全速力で廊下を走る。足の速さ、というより長さで負ける気はしないが、運動不足による息切れだけが気がかりだった。
* * *
櫂の後ろ姿を視界に捉えたのは、前にも櫂が寝ていた公園の近くだった。他に逃げ場所を知らない、どこにも行けない櫂の境遇を感じて、胸が張り裂けそうだった。
今度こそ躊躇することなく、彼は櫂の腕を掴んだ。
「……どこ行くんだ」
「離せよ」
櫂の腕を引いて、自分のほうを向かせた。
視線を合わせるようにしゃがみ込んで、俯いた櫂の顔を見上げる。
その腕を解放しても、櫂はもう彼から逃げなかった。
怒っているわけではないことが伝わるようにと願いながら、ゆっくりと問いかける。
「どうして、行きたくないんだ」
尋ねるのは酷だと思った。けれどここで聞かないのは、多分もっと酷なのだ。今これを聞いてやれるのは自分しか居なくて――櫂の保護者を引き受けた以上、聞いてやらなければいけないのだ。
櫂を、ほんとうに独りにしてしまわないために。
櫂の顔が、痛みをこらえるように歪む。
固い表情のまま、櫂はゆっくりと告げた。
「……みんなが、遠い……」
折れそうな体を支えるように両腕で包んで、顔が見えないように肩越しに引き寄せる。
「……どうやって、あの中にいたのか、もう、わかんねぇ……」
それは櫂が、初めて知ってしまった他人との断絶なのだろう。自分とは違う世界に生きる人々。両親の死は、櫂を否応なく他者から引き離してしまった。いや――
(……ごめんな)
それを決定的にしてしまったのは、多分自分だった。
自分にはやるべきことがあるからと、そう言って日常に紛らわせることで対処していた喪失の哀しみ。大人になった自分でさえそうなのに、それよりも遥かに幼い櫂が、その哀しみと一人で向き合い続けることを止めてやらなかった。それが櫂の望みなのだろうと、放っておいてしまった。
本当はきっと、自分こそがそれを望んでいたのだ。哀しみを無かったことにしてしまいたくなかった。誰にも触れてほしくなかった。そんな自分を誤魔化したまま、重すぎる喪失を櫂に押し付けた。
哀しみから逃がしてやるべきなのは、櫂のほうだったのに。
「……父さん、母さん……!」
泣き出した櫂を、うまく抱きしめてやれない。櫂が泣いているところを見たことがなかったけれど、それは泣かなかったのではなくて、泣くことすらできなかったのだと、今更になって思う。
その涙を、その心を、誰も受け止めてやらなかった。
保護者を引き受けた自分でさえ、せいぜい生活の面倒を見るくらいで精一杯だったのだ。
そのことを櫂は、当然のように受け入れてしまっていたけれど。
「……トシキ、後江町に戻りたいと思うか?」
櫂のためにどうしてやればいいのか。そう尋ねると、櫂は弱々しく首を振った。
「……戻るのは、もっと怖い……」
「……そうか。……そうだな」
世界と突然切り離されたような違和感。それを感じてしまうのは、世界ではなく櫂のほうが変わってしまったからだ。慣れ親しんだものであればあるほど、違和感もまた強烈なのだろう。
ならば選ぶ道はひとつだと、今度こそ彼は腹をくくる。
「トシキ」
名前を呼んで両手をその肩に置くと、泣きはらした目の櫂が、それでも涙は見せないでこちらを見つめる。
その気丈な様子に、感じるプレッシャーは相当なものだった。
「……いいか?お前はこの町に、住み始めたばかりだ。周りにお前が知ってる奴は、誰もいない。向こうだって、お前を知らない。遠くて当たり前なんだ」
ゆっくりと、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。そんな風に誰かに話しかけたことは、今までにないような気がした。
櫂がひとつ、小さく頷く。
その反応を確かに受け止めて、彼は続けた。
「……だけどお前は、そこに行かなきゃいけない」
そこに行ったほうがいい、とは言えなかった。一人で閉じこもるよりも、多分櫂はもっと違う誰かと――櫂の哀しみさえ知らない誰かと、触れ合ったほうがいい。失くしたものが戻らないなら、新しいものを手に入れるべきなのだ。どちらに転んでも苦しいのだとしても、喪失の中にうずくまるよりは、その方が道が開く可能性はあるはずだった。
それでもこれは、戦えと言うに等しい言葉なのだ。
「……今すぐにとは言わない。どうせもうすぐ中学に上がるんだ。それからでも、遅くないだろうからな」
厳しい表情で聞いたまま、答えを出せない様子の櫂の頭を、精一杯で優しくなでる。
「……今日はうちに帰ろう。まだ寒いから、このままじゃ風邪引いちまうぞ」
黙って聞いていた櫂が、少しだけ表情を和らげて、小さく答えた。
「……分かった」
多分に二重の意味を持ったその答えを、支えてやりたいと強く思った。
* * *
帰り道、二人で並んで歩きながら、櫂が言った。
「なぁ、いっこだけ……頼んでもいいか?」
「なんだ?」
「……新しいカード、ほしいんだ」
「カード?」
鸚鵡返しに聞き返すと、聞こえているのかいないのか、櫂が呟く。
「……もっと、強くなりたいから……」
言葉は要領を得なかったけれど、それが櫂にとって大切なことなのだということだけは分かって、彼は答えた。
「分かった。じゃあ、次の日曜、二人で買い物に行こうか」
「……うん」
それが二人が、初めて交わした約束だった。
* * *
新しいカードで、新しいデッキが作れたら。
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