リスペクト公式、と言いつつBL・GL妄想上等の色々無節操なのでカオス注意。
タイトルは某大胆スピンオフアニメからパロりました。兵部かっこいいよ兵部。
本当は101・102話の妄想補完をやろうと思ったはずが、噂によるとアニメ誌的にはNAL4はソウルステージ優勝の時点で真相聞いてたとかいうし、タクトへのレオン「貴様のコマなどになってたまるか!」ってツッコミの正当性はもっと認知されるべき(一応ミサキさんも引いてたけど・笑)とか考えて、「素で腹黒いタクトとそれにキレる櫂くんが見たかった」という私情全開で書き始めたら、うっかり「2期レン様にはアクが足りない」というフラストレーション(笑)が炸裂して前後編になりました。前編はソウルステージ~バカンスネタです。
テツが空気ですごめんなさい。いや、テツは惑星クレイが実在してるって知らないみたいだったからさ…?
本当は101・102話の妄想補完をやろうと思ったはずが、噂によるとアニメ誌的にはNAL4はソウルステージ優勝の時点で真相聞いてたとかいうし、タクトへのレオン「貴様のコマなどになってたまるか!」ってツッコミの正当性はもっと認知されるべき(一応ミサキさんも引いてたけど・笑)とか考えて、「素で腹黒いタクトとそれにキレる櫂くんが見たかった」という私情全開で書き始めたら、うっかり「2期レン様にはアクが足りない」というフラストレーション(笑)が炸裂して前後編になりました。前編はソウルステージ~バカンスネタです。
テツが空気ですごめんなさい。いや、テツは惑星クレイが実在してるって知らないみたいだったからさ…?
RIDE82.5 晩餐会にて
ヴァンガードファイトサーキットの始まる前、櫂が初めて――そう、“初めて”《なるかみ》でファイトしたとき。それは櫂が“自分で組んだ”デッキだった。与えられた記憶に偽りは感じられず、惑う要素は何一つ無かった。
対する《ゴールドパラディン》を操るアイチは、まるで時間を逆行したような、自信なさげなアイチだった。
このデッキは僕の本当のデッキじゃない、そう言ったアイチの言葉に嘘が無いことは櫂にも分かった。そして、アイチが言う「本当のデッキ」の記憶が、自分自身に眠っていることも。
けれど同時に、櫂にはもうひとつ分かることがあった。アイチ自身のプレイングから伝わってくるのは、戸惑いだけではない。重ねてきたファイトの経験。デッキが変わろうと変わることのない、アイチ自身に備わる力。
アイチには《ゴールドパラディン》を扱うことができる。櫂自身が、手に入れたばかりの《なるかみ》で戦えているように。それが櫂の感じた答えだった。だから迷うなと、ヴァーミリオンの一閃で薙ぎ払った。
何が起こっているのか、その手がかりはすぐに知れた。デッキを入れ替えた張本人、立凪タクトからの挑戦状――“真実が知りたければ、ヴァンガードファイトサーキットを勝ち上がって来い”。
そのとき櫂が感じたのは――ファイターとしての、純粋な高揚だった。
「勝利者だけが知るだと?……面白い」
手にしている《なるかみ》の力を、もっと試してみたい。戦う舞台は用意されている。これがたった今手に入れたデッキだというなら、サーキットに挑む前に、今までよりも広い世界で腕を磨くのも悪くない――
「で、でも、そんな。ヴァンガードファイトサーキットなんて、どうすれば?」
「道は自分で作るだけだ」
「櫂くん」
「アイチ、俺は俺の道を通って奴のところに行く」
「えっ……!?」
「お前はお前の道をゆけ。そして俺達の道が交差したら――」
* * *
「……って言って、置いてきちゃったんですね?」
分かる者だけに分かる沈痛な面持ちをしている櫂に、レンはふむふむと頷いた。
とあるホテルの一室、櫂の話を聞いて相槌を打っているのは主にレンで、その隣にはレンの傍を片時も離れてなるものかという調子でアサカが座っている。そんな三人を、テツは少し離れたところで見守っている。
チームNAL4。ソウルステージで優勝を勝ち取った彼らは、VFサーキットを主催する立凪タクトから、今起こっているという事態について話を聞いたところだった。
それが何故櫂の悩み相談につながったのかには、少々説明が必要だろう。
ファイトに参加する三人が、タクトから聞かされた話はこうだ。惑星クレイは実在している。今クレイは謎の勢力の侵略を受けており、敵の手によって《ブラスター・ブレード》、《ブラスター・ダーク》、《ドラゴニック・オーバーロード》の三体が封印されたために、彼らが先導していた三つのクランは、地球でも失われたクランになってしまった。そしてこのままでは、全てのクランが力を失うことになる。PSYクオリアはこのクレイのユニットと地球のヴァンガードファイターがシンクロするための能力。どうか我々をまとめる先導者となって、惑星クレイを救って欲しい――
「……このデッキ、なんだかしっくり来ないと思ってたら、そういうことだったんですね」
今はアイチと同じ《ゴールドパラディン》を使うレンは、元は《シャドウパラディン》の使い手だった。アイチのように以前のデッキの記憶は残っていなかったが、チームQ4とのファイトでPSYクオリアに目覚め、カードの声が聞こえるようになって以来、《ゴールドパラディン》に馴染みのないものを感じて、ステージ決勝ではテツの《ダークイレギュラーズ》を借りてファイトしたりもしていた。
レンは穏やかに答える。
「僕は構いませんよ。自分のデッキを取り戻すためでもありますし……」
そこで一瞬言葉を切ると、レンは悪戯っぽい表情で笑った。
「それに、異世界の先導者なんてワクワクしちゃいます」
「さすがレン様ですわ!」
間髪入れずにレンを賛美するアサカを聞き流しながら、櫂が口を開いた。
「一つ聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
答えるタクトは悠然とした雰囲気を身にまとっていて、救いを求めると言うにはあまりにも落ち着きすぎているように櫂には思えた。自分たちをヴァンガードファイトサーキットへ誘った宣戦布告といい、挑発的な態度が堂に入りすぎている。
「俺たちのデッキを入れ替えたのはお前なのか?」
「ええ、戦う力を失ったままでは困るでしょう?だから僕は、封印されたクランから、彼らを助けだそうとしているクランへ君たちのデッキを入れ替えました。今の君たちにふさわしいデッキだと思いますが」
答えるタクトの言葉に、偽りも、間違いも感じられない。しかし、余裕のある笑顔がどうにも引っかかる。
怪訝な顔をやめられないまま、櫂は質問を重ねた。
「封じられたクランの記憶を、アイチだけが覚えていたのは何故だ?」
「……僕を疑っているんですか?」
タクトに動揺の色は見えなかった。かえってそれが怪しいと感じられるほどに。
「俺は“何故か”と聞いただけだ」
鎌をかけたつもりはなかった。ただ不審に思ってはいたのだから、結果的には同じなのかもしれないが。
「これは墓穴でしたね」
肩をすくめて、タクトは自白した。
「……俺たちの記憶を操作したのは、お前なのか」
「そうです。君たちが万全の態勢でファイトに臨めるようにね」
「万全……?」
ソウルステージ準決勝で当たったアイチの様子を思い起こして、櫂は呟く。まだ戸惑いの消しきれないアイチのファイトは、万全という言葉からは程遠かった。それに――
「自分のクランを取り戻すために戦うのに、何故記憶を封じる必要がある?」
目的を知らないまま戦う不条理。櫂の疑問に、タクトはこう答えた。
「少し語弊がありますね。君たちの記憶に干渉しているのは、僕だけではありません。封じられたクランは、歴史の中で忘れ去られ始めていました。つまり、君たち自身が忘れ始めていたんです。だから僕は、消えかけたクランに新しいクランの記憶を上書きしました。僕がしたのは、半分は辻褄合わせのようなものですよ。先導アイチについては……」
どこか面白がるように、タクトは静かに笑う。
「……僕も肝心なところはわかりません。櫂トシキ、君が彼とのファイトをきっかけに、かつての記憶に触れ得た理由もね」
かすかに底意地の悪さの漂うタクトの表情に、彼を見つめる櫂の表情が険しくなる。
櫂の鋭い視線を受け止めても、タクトは態度を崩さない。
「君の噂は聞いています。《ロイヤルパラディン》と《かげろう》、二つのデッキでPSYクオリアと互角に渡り合ったヴァンガードファイターだと。もちろん、今の君の記憶の中では、そのデッキは《ゴールドパラディン》と《なるかみ》になっているでしょうが」
指摘されたそれが、ヴァンガードチャンピオンシップ全国大会のさなか、アイチと、そしてレンと戦ったファイトのことだとは理解できる。しかしそのファイトを思い起こそうとしても、それは霞がかったひどく曖昧な記憶だった。
櫂からは嘲笑にしか見えない表情で、タクトが笑う。
「……《かげろう》と共にあった記憶の中に、君自身が忘れたい記憶でもあったんじゃないですか?」
「――っ!」
だんっ、と、ひときわ大きな音があたりに響いた。
テーブルを叩いた櫂が、イスを蹴倒す勢いで立ち上がっている。
櫂は顔を上げると、タクトへの怒りを隠そうともせず、睨みつけて言った。
「これだけは言っておく。俺はお前のやり方が気に入らない」
「覚えておきましょう」
不敵に笑ったタクトの返事を受け止めると、櫂は彼に背を向けて部屋を出ていく。
その一部始終を横目で見届けたレンは、何食わぬ顔で言った。
「……用件は以上のようですから、僕もここでお暇しますね」
「ええ、よろしくお願いします」
にっこりと笑ったタクトに、レンもまた同じような笑顔で応える。
席を立って出口のドアに手をかけたレンが、振り向かないままでタクトに言った。
「……櫂のこと、あんまりいじめないであげてくださいね?」
虚を突かれたタクトが、ぱちくりと目をしばたたかせる。
横顔で振り向いたレンの瞳には、どこか怪しげな光が宿っていた。
「それは僕の特権ですから」
思わず真顔で黙り込むタクトに、レンは冷たい雰囲気をかき消すように笑う。
「それでは」
嘘のように衒いのない笑顔に、タクトもぎこちなく笑った。
「……ごきげんよう?」
その答えに、レンが背を向ける。ぱたりと閉じたドアを確認して、タクトは疲れたようにイスに沈み込むと、額に手を当ててぼやいた。
「怖い人たちですね、まったく……」
* * *
既に櫂の後ろ姿も見えない廊下で、アサカはレンに尋ねた。
「レン様、何故櫂トシキをかばうようなことを?」
レンを巡って、櫂にある種のライバル意識のようなものを感じている――ありていに言って櫂を邪魔者扱いしているアサカには、先ほどのレンの言動は不可解以外の何物でもなかった。
「気にしないでください。たいしたことじゃありませんから」
「レン様がそう言うなら……」
自分に対してはひたすら聞き分けのいいアサカに微笑みかけながら、レンは胸中で呟く。
(うーん、自分がやるのは良くても人がやるのはイラッとすることってあるものですね……)
記憶操作に関するタクトの言い回しは、櫂の神経を逆撫でするためものだった。そして思惑通り逆撫でされたからこそ、櫂は言い返せなかった。そのままの勢いで乗ってしまえば、彼の掌で踊ることになる。
櫂を挑発して反論を封じたその裏には、多分、タクトの急所がある。PSYクオリアを使い始めて分かったことだが、櫂はどうも、直感的にあの力があまり好きではないらしい。櫂とのファイトにPSYクオリアを使うと、櫂が一気に不機嫌になるのだ。
(僕たちにPSYクオリアを使わせるために、彼にとって都合の悪い記憶を消した、っていうのもありそうなんだよねぇ)
詳細が曖昧になった記憶の中には、レンと櫂のファイトも含まれている。その喧嘩の原因がPSYクオリアだったんじゃないかと、レンは推理していた。タクトの急所と櫂の急所が表裏一体になっているから、タクトは櫂を攻撃した――攻撃せざるを得なかったのだ。正直櫂の急所を攻撃したいのは自分も同じなのだが、だからと言ってタクトの保身を見逃してやるほど甘いつもりはない。
「……敵に塩を送る、ってやつかな」
「はぁ……」
疑問符を浮かべ続けるアサカに、なんでもないよとレンは笑った。
* * *
そんなこんなで、部屋に戻ったレンが櫂に「アイチくんと何かあったんですか?」と尋ねたところから、相談スタートというわけだ。どうも記憶操作について詳しく聞いたことで、アイチとのすれ違いが思ったよりもかなり深刻そうだと感じたらしい。
「そりゃあ心細いでしょうねぇ。《ロイヤルパラディン》達のことを唯一分かってくれると思った櫂が、あっさり離れて行ったんですから」
レンの言葉が櫂にぐさりと突き刺さる。その状況が心細いと言われてしまえば、確かにそうだろう。
もちろん櫂には、アイチを置いていったつもりはない。あのファイトを通して、ああ俺とアイチは違う記憶を持っているんだなと理解した時に、じゃあ違う道を進むしかないよなと、しごく当然の流れとして納得してしまっただけで。
真相を知りたいのは櫂も同じだ。アイチと櫂は、同じ目的を持って戦っている。一人で戦うのが当然だった櫂にとっては、それこそが何よりの絆だった。しかしその絆の感じ方がアイチを突き放すような真似につながる事実は、自分がそういう人間だとしか言いようがないだけに、よりいっそう櫂を苛む。
原罪とはこういうときに使う言葉なんじゃないだろうか。内心で現実逃避を始める櫂を、制するようにレンが言った。
「……まぁでも、落ち込んでても仕方ないんじゃないですか?」
意識を引き戻されて、櫂がレンを見やる。
「君のそれは信頼でしょう?それを否定しても何にもなりませんよ」
その言葉を、櫂はすぐには受け入れられなかった。正当化を拒否する潔癖さは、櫂をしばしば天邪鬼にする。それは“嘘”だと、櫂自身が感じているからだ。アイチへの信頼が事実でも、状況を見誤っていた以上、それは単なる思い違いにも等しい。
真相を知ってしまった今、本当の試練が始まったことを櫂は感じていた。進んでしまった道は引き返せない。アイチはチームQ4として、櫂はチームNAL4として、それぞれの道を歩き始めてしまった。奇しくも自分が言った通りになっている現実は、しかしあまりにイメージしたものとは程遠い。
(イメージに縛られるな、か……)
アイチにつきつけた言葉を、自分自身に投げかけてみる。レンの言うとおり、ここでうだうだ言っても仕方ないのだろう。
「アイチくん達に、真相を伝えますか?」
「……いや」
「櫂?」
まさかそう来ると思っていなかったレンは、咄嗟に聞き返してしまう。
「……アイチに聞かれない限りは、俺からは言わない」
依然として何故だと聞きたげなレンに、櫂は言葉を重ねた。
「どんな方法で知るかはアイチ次第だ。アイチが自分の力で真実を知ることを諦めない内は……俺は、あいつの邪魔はしたくない」
「強情な人ですね」
「悪かったな」
溜息をつくように言ったレンに、櫂は軽く悪態をつく。
元のクランを取り戻すためには、結局は今のデッキで戦うしかないのだ。今のデッキで強くなっておくに越したことはない。タクトと共犯関係に陥るのは限りなく不本意だったが、彼とも利害は一致しているのだろう。
「……それじゃ、立凪タクトに直談判と行きましょうか」
「おいまて、何故そうなる」
いきなり話を飛ばしたレンに櫂が突っ込むと、レンが笑った。
「彼らのために戦うことになるわけですから、僕たちにも少しくらいメリットがあってもいいと思いませんか?」
しかし目が笑っていない。櫂は思った。あ、こいつ今本気で怒ってる。
その矛先には自分も含まれている気がして、背筋が凍るのを感じながら、櫂は大人しく頷いたのだった。
レンがタクトに提案したのは、チームQ4と自分たちを南の島で遊ばせろというものだった。
思惑だらけのバカンスが、幕を開ける。
+++
結論:一番怒らせちゃいけないのはレン様\(^o^)/
これをベースに後編は101・102話裏で櫂VS虚無櫂デラックス(?)予定です。予定は未定(逃げるな)
ヴァンガードファイトサーキットの始まる前、櫂が初めて――そう、“初めて”《なるかみ》でファイトしたとき。それは櫂が“自分で組んだ”デッキだった。与えられた記憶に偽りは感じられず、惑う要素は何一つ無かった。
対する《ゴールドパラディン》を操るアイチは、まるで時間を逆行したような、自信なさげなアイチだった。
このデッキは僕の本当のデッキじゃない、そう言ったアイチの言葉に嘘が無いことは櫂にも分かった。そして、アイチが言う「本当のデッキ」の記憶が、自分自身に眠っていることも。
けれど同時に、櫂にはもうひとつ分かることがあった。アイチ自身のプレイングから伝わってくるのは、戸惑いだけではない。重ねてきたファイトの経験。デッキが変わろうと変わることのない、アイチ自身に備わる力。
アイチには《ゴールドパラディン》を扱うことができる。櫂自身が、手に入れたばかりの《なるかみ》で戦えているように。それが櫂の感じた答えだった。だから迷うなと、ヴァーミリオンの一閃で薙ぎ払った。
何が起こっているのか、その手がかりはすぐに知れた。デッキを入れ替えた張本人、立凪タクトからの挑戦状――“真実が知りたければ、ヴァンガードファイトサーキットを勝ち上がって来い”。
そのとき櫂が感じたのは――ファイターとしての、純粋な高揚だった。
「勝利者だけが知るだと?……面白い」
手にしている《なるかみ》の力を、もっと試してみたい。戦う舞台は用意されている。これがたった今手に入れたデッキだというなら、サーキットに挑む前に、今までよりも広い世界で腕を磨くのも悪くない――
「で、でも、そんな。ヴァンガードファイトサーキットなんて、どうすれば?」
「道は自分で作るだけだ」
「櫂くん」
「アイチ、俺は俺の道を通って奴のところに行く」
「えっ……!?」
「お前はお前の道をゆけ。そして俺達の道が交差したら――」
* * *
「……って言って、置いてきちゃったんですね?」
分かる者だけに分かる沈痛な面持ちをしている櫂に、レンはふむふむと頷いた。
とあるホテルの一室、櫂の話を聞いて相槌を打っているのは主にレンで、その隣にはレンの傍を片時も離れてなるものかという調子でアサカが座っている。そんな三人を、テツは少し離れたところで見守っている。
チームNAL4。ソウルステージで優勝を勝ち取った彼らは、VFサーキットを主催する立凪タクトから、今起こっているという事態について話を聞いたところだった。
それが何故櫂の悩み相談につながったのかには、少々説明が必要だろう。
ファイトに参加する三人が、タクトから聞かされた話はこうだ。惑星クレイは実在している。今クレイは謎の勢力の侵略を受けており、敵の手によって《ブラスター・ブレード》、《ブラスター・ダーク》、《ドラゴニック・オーバーロード》の三体が封印されたために、彼らが先導していた三つのクランは、地球でも失われたクランになってしまった。そしてこのままでは、全てのクランが力を失うことになる。PSYクオリアはこのクレイのユニットと地球のヴァンガードファイターがシンクロするための能力。どうか我々をまとめる先導者となって、惑星クレイを救って欲しい――
「……このデッキ、なんだかしっくり来ないと思ってたら、そういうことだったんですね」
今はアイチと同じ《ゴールドパラディン》を使うレンは、元は《シャドウパラディン》の使い手だった。アイチのように以前のデッキの記憶は残っていなかったが、チームQ4とのファイトでPSYクオリアに目覚め、カードの声が聞こえるようになって以来、《ゴールドパラディン》に馴染みのないものを感じて、ステージ決勝ではテツの《ダークイレギュラーズ》を借りてファイトしたりもしていた。
レンは穏やかに答える。
「僕は構いませんよ。自分のデッキを取り戻すためでもありますし……」
そこで一瞬言葉を切ると、レンは悪戯っぽい表情で笑った。
「それに、異世界の先導者なんてワクワクしちゃいます」
「さすがレン様ですわ!」
間髪入れずにレンを賛美するアサカを聞き流しながら、櫂が口を開いた。
「一つ聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
答えるタクトは悠然とした雰囲気を身にまとっていて、救いを求めると言うにはあまりにも落ち着きすぎているように櫂には思えた。自分たちをヴァンガードファイトサーキットへ誘った宣戦布告といい、挑発的な態度が堂に入りすぎている。
「俺たちのデッキを入れ替えたのはお前なのか?」
「ええ、戦う力を失ったままでは困るでしょう?だから僕は、封印されたクランから、彼らを助けだそうとしているクランへ君たちのデッキを入れ替えました。今の君たちにふさわしいデッキだと思いますが」
答えるタクトの言葉に、偽りも、間違いも感じられない。しかし、余裕のある笑顔がどうにも引っかかる。
怪訝な顔をやめられないまま、櫂は質問を重ねた。
「封じられたクランの記憶を、アイチだけが覚えていたのは何故だ?」
「……僕を疑っているんですか?」
タクトに動揺の色は見えなかった。かえってそれが怪しいと感じられるほどに。
「俺は“何故か”と聞いただけだ」
鎌をかけたつもりはなかった。ただ不審に思ってはいたのだから、結果的には同じなのかもしれないが。
「これは墓穴でしたね」
肩をすくめて、タクトは自白した。
「……俺たちの記憶を操作したのは、お前なのか」
「そうです。君たちが万全の態勢でファイトに臨めるようにね」
「万全……?」
ソウルステージ準決勝で当たったアイチの様子を思い起こして、櫂は呟く。まだ戸惑いの消しきれないアイチのファイトは、万全という言葉からは程遠かった。それに――
「自分のクランを取り戻すために戦うのに、何故記憶を封じる必要がある?」
目的を知らないまま戦う不条理。櫂の疑問に、タクトはこう答えた。
「少し語弊がありますね。君たちの記憶に干渉しているのは、僕だけではありません。封じられたクランは、歴史の中で忘れ去られ始めていました。つまり、君たち自身が忘れ始めていたんです。だから僕は、消えかけたクランに新しいクランの記憶を上書きしました。僕がしたのは、半分は辻褄合わせのようなものですよ。先導アイチについては……」
どこか面白がるように、タクトは静かに笑う。
「……僕も肝心なところはわかりません。櫂トシキ、君が彼とのファイトをきっかけに、かつての記憶に触れ得た理由もね」
かすかに底意地の悪さの漂うタクトの表情に、彼を見つめる櫂の表情が険しくなる。
櫂の鋭い視線を受け止めても、タクトは態度を崩さない。
「君の噂は聞いています。《ロイヤルパラディン》と《かげろう》、二つのデッキでPSYクオリアと互角に渡り合ったヴァンガードファイターだと。もちろん、今の君の記憶の中では、そのデッキは《ゴールドパラディン》と《なるかみ》になっているでしょうが」
指摘されたそれが、ヴァンガードチャンピオンシップ全国大会のさなか、アイチと、そしてレンと戦ったファイトのことだとは理解できる。しかしそのファイトを思い起こそうとしても、それは霞がかったひどく曖昧な記憶だった。
櫂からは嘲笑にしか見えない表情で、タクトが笑う。
「……《かげろう》と共にあった記憶の中に、君自身が忘れたい記憶でもあったんじゃないですか?」
「――っ!」
だんっ、と、ひときわ大きな音があたりに響いた。
テーブルを叩いた櫂が、イスを蹴倒す勢いで立ち上がっている。
櫂は顔を上げると、タクトへの怒りを隠そうともせず、睨みつけて言った。
「これだけは言っておく。俺はお前のやり方が気に入らない」
「覚えておきましょう」
不敵に笑ったタクトの返事を受け止めると、櫂は彼に背を向けて部屋を出ていく。
その一部始終を横目で見届けたレンは、何食わぬ顔で言った。
「……用件は以上のようですから、僕もここでお暇しますね」
「ええ、よろしくお願いします」
にっこりと笑ったタクトに、レンもまた同じような笑顔で応える。
席を立って出口のドアに手をかけたレンが、振り向かないままでタクトに言った。
「……櫂のこと、あんまりいじめないであげてくださいね?」
虚を突かれたタクトが、ぱちくりと目をしばたたかせる。
横顔で振り向いたレンの瞳には、どこか怪しげな光が宿っていた。
「それは僕の特権ですから」
思わず真顔で黙り込むタクトに、レンは冷たい雰囲気をかき消すように笑う。
「それでは」
嘘のように衒いのない笑顔に、タクトもぎこちなく笑った。
「……ごきげんよう?」
その答えに、レンが背を向ける。ぱたりと閉じたドアを確認して、タクトは疲れたようにイスに沈み込むと、額に手を当ててぼやいた。
「怖い人たちですね、まったく……」
* * *
既に櫂の後ろ姿も見えない廊下で、アサカはレンに尋ねた。
「レン様、何故櫂トシキをかばうようなことを?」
レンを巡って、櫂にある種のライバル意識のようなものを感じている――ありていに言って櫂を邪魔者扱いしているアサカには、先ほどのレンの言動は不可解以外の何物でもなかった。
「気にしないでください。たいしたことじゃありませんから」
「レン様がそう言うなら……」
自分に対してはひたすら聞き分けのいいアサカに微笑みかけながら、レンは胸中で呟く。
(うーん、自分がやるのは良くても人がやるのはイラッとすることってあるものですね……)
記憶操作に関するタクトの言い回しは、櫂の神経を逆撫でするためものだった。そして思惑通り逆撫でされたからこそ、櫂は言い返せなかった。そのままの勢いで乗ってしまえば、彼の掌で踊ることになる。
櫂を挑発して反論を封じたその裏には、多分、タクトの急所がある。PSYクオリアを使い始めて分かったことだが、櫂はどうも、直感的にあの力があまり好きではないらしい。櫂とのファイトにPSYクオリアを使うと、櫂が一気に不機嫌になるのだ。
(僕たちにPSYクオリアを使わせるために、彼にとって都合の悪い記憶を消した、っていうのもありそうなんだよねぇ)
詳細が曖昧になった記憶の中には、レンと櫂のファイトも含まれている。その喧嘩の原因がPSYクオリアだったんじゃないかと、レンは推理していた。タクトの急所と櫂の急所が表裏一体になっているから、タクトは櫂を攻撃した――攻撃せざるを得なかったのだ。正直櫂の急所を攻撃したいのは自分も同じなのだが、だからと言ってタクトの保身を見逃してやるほど甘いつもりはない。
「……敵に塩を送る、ってやつかな」
「はぁ……」
疑問符を浮かべ続けるアサカに、なんでもないよとレンは笑った。
* * *
そんなこんなで、部屋に戻ったレンが櫂に「アイチくんと何かあったんですか?」と尋ねたところから、相談スタートというわけだ。どうも記憶操作について詳しく聞いたことで、アイチとのすれ違いが思ったよりもかなり深刻そうだと感じたらしい。
「そりゃあ心細いでしょうねぇ。《ロイヤルパラディン》達のことを唯一分かってくれると思った櫂が、あっさり離れて行ったんですから」
レンの言葉が櫂にぐさりと突き刺さる。その状況が心細いと言われてしまえば、確かにそうだろう。
もちろん櫂には、アイチを置いていったつもりはない。あのファイトを通して、ああ俺とアイチは違う記憶を持っているんだなと理解した時に、じゃあ違う道を進むしかないよなと、しごく当然の流れとして納得してしまっただけで。
真相を知りたいのは櫂も同じだ。アイチと櫂は、同じ目的を持って戦っている。一人で戦うのが当然だった櫂にとっては、それこそが何よりの絆だった。しかしその絆の感じ方がアイチを突き放すような真似につながる事実は、自分がそういう人間だとしか言いようがないだけに、よりいっそう櫂を苛む。
原罪とはこういうときに使う言葉なんじゃないだろうか。内心で現実逃避を始める櫂を、制するようにレンが言った。
「……まぁでも、落ち込んでても仕方ないんじゃないですか?」
意識を引き戻されて、櫂がレンを見やる。
「君のそれは信頼でしょう?それを否定しても何にもなりませんよ」
その言葉を、櫂はすぐには受け入れられなかった。正当化を拒否する潔癖さは、櫂をしばしば天邪鬼にする。それは“嘘”だと、櫂自身が感じているからだ。アイチへの信頼が事実でも、状況を見誤っていた以上、それは単なる思い違いにも等しい。
真相を知ってしまった今、本当の試練が始まったことを櫂は感じていた。進んでしまった道は引き返せない。アイチはチームQ4として、櫂はチームNAL4として、それぞれの道を歩き始めてしまった。奇しくも自分が言った通りになっている現実は、しかしあまりにイメージしたものとは程遠い。
(イメージに縛られるな、か……)
アイチにつきつけた言葉を、自分自身に投げかけてみる。レンの言うとおり、ここでうだうだ言っても仕方ないのだろう。
「アイチくん達に、真相を伝えますか?」
「……いや」
「櫂?」
まさかそう来ると思っていなかったレンは、咄嗟に聞き返してしまう。
「……アイチに聞かれない限りは、俺からは言わない」
依然として何故だと聞きたげなレンに、櫂は言葉を重ねた。
「どんな方法で知るかはアイチ次第だ。アイチが自分の力で真実を知ることを諦めない内は……俺は、あいつの邪魔はしたくない」
「強情な人ですね」
「悪かったな」
溜息をつくように言ったレンに、櫂は軽く悪態をつく。
元のクランを取り戻すためには、結局は今のデッキで戦うしかないのだ。今のデッキで強くなっておくに越したことはない。タクトと共犯関係に陥るのは限りなく不本意だったが、彼とも利害は一致しているのだろう。
「……それじゃ、立凪タクトに直談判と行きましょうか」
「おいまて、何故そうなる」
いきなり話を飛ばしたレンに櫂が突っ込むと、レンが笑った。
「彼らのために戦うことになるわけですから、僕たちにも少しくらいメリットがあってもいいと思いませんか?」
しかし目が笑っていない。櫂は思った。あ、こいつ今本気で怒ってる。
その矛先には自分も含まれている気がして、背筋が凍るのを感じながら、櫂は大人しく頷いたのだった。
レンがタクトに提案したのは、チームQ4と自分たちを南の島で遊ばせろというものだった。
思惑だらけのバカンスが、幕を開ける。
+++
結論:一番怒らせちゃいけないのはレン様\(^o^)/
これをベースに後編は101・102話裏で櫂VS虚無櫂デラックス(?)予定です。予定は未定(逃げるな)
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