リスペクト公式、と言いつつBL・GL妄想上等の色々無節操なのでカオス注意。
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147話後で素の櫂くん三和くんイメージ。願望全開。
「現実を離れた精神世界で二人きり」というシチュエーションを書くのがけっこう好きなことに気付かざるを得ない今日この頃です(笑)


 暗い闇の中で、三和は目を覚ました。見渡す限りの黒の中で、三和が倒れている大地だけに妙な現実感が宿っている。あたりにぶつかりそうなものはないらしい――というのは、触覚からの情報なのだろうか。
 気を失うまでの記憶を思い出して、三和ははっと顔をあげる。
 櫂に負けてリバースしたはずの自分が、そのままここにいる。
 だったらここには――リバースしたはずの櫂だって、いるかもしれない。
 とはいっても、本当の真っ暗闇だ。一歩踏み出した先に、地面があるかさえわからない。そう思って半ば這うような姿勢で先の地面へと手を伸ばすと、そこに はきちんと地面が続いていた。腹をくくって立ち上がり、足を一歩踏み出す。ゆっくりと、三和は歩き出した。自分の向かう先を信じて。


 どれくらい歩いただろう。
 探していた人影を見つけて、三和は叫んだ。
「櫂!」
 その声に、櫂がはっとこちらを振り返る。「三和?」
 言うが早いか走り出していた三和は、櫂に届く一歩手前で空に頭をぶつけた。
「いって……」
 壁に駆け寄った櫂は何を思ったのか、何度か壁を殴りつける。
 ひとまず諦めたようで、そこで初めて三和に声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
「うう……見りゃ分かんだろ大丈夫じゃねぇ……」
 ぶつけたところを抱えてしゃがみこみながら、三和はそう絞り出す。
 しかし櫂から返ってきたのはさらなる疑問だった。
「……そっちからは、俺が見えているのか?」
「えっ?」
「俺からお前は見えない。壁があるのはお前も分かるな? お前はそれが見えないようだが、こっちはただの黒い壁なんだ」
「あー……なるほどそれで」
 櫂からは今うずくまった自分の姿も全く見えていないらしい。確かに言われてみれば、櫂の視線も不自然だった。三和の頭上を通過するそれは、壁の向こうにいる見えないままの三和に呼びかける視線なのだろう。
 うずく痛みを押さえつつ、納得して三和は立ち上がる――が、当然ながら視線は噛み合わない。
「なんか不便だな。こっちからはお前丸見えだってのに」
「お前が壁にぶつかった一瞬だけは、俺にもお前が見えたんだが」
「え」
「もう一度やれとは言ってない」
 間髪入れずに先取りした答えが返ってきた。
「こっちから殴っても効果は無かった。そっちからどうかは分からんが、見えても一瞬ならあまり試す意味もないだろう」
「でも試す価値はあんだろ」
 三和が右拳に息を吹きかける。
「はっ!」
 思い切りよく殴りつけた。
「――っ!」
 声にならない悲鳴を上げて、三和が拳をかばう。
「……い、今のどうだった?」
「……見えた」
「よし! じゃあ早速――」
「待てお前何する気だ」
「え。何って、連打」
「馬鹿か。見えなくたって会話はできるんだ。無駄に体を痛めつけるな」
「でも俺のほうが不便なんだって、俺からお前は見えてるし」
「向き合わなきゃいいだろ」
「え」
 言うが早いか、櫂が壁に背を向けてもたれかかる。
「なるほど」
 櫂にならって、三和も壁に背を預けた。見えない壁――櫂にとってはただの壁を挟んで、背中合わせに。
(でもこれも、結構さびしーような……)
「……お前、ずっとそこにいんの?」
「ああ」
「何してるんだ?」
「何も。あいつのファイトは見てる」
「見えるのか」
「そうらしい」
「どう思う? あいつのファイト」
「……それを聞いてどうするんだ」
「あいつが自分で選んだって言うの、ある意味当然じゃん。お前はどうなのかなって」
 すぐには櫂は答えなかった。答えにくい質問だとは思うから、三和は次の答えを待つ。
「……お前のいるところは、他に壁はないのか?」
「え?」
「こっちは似たような壁が四方にある。出られないんだ」
「……俺もよくわかんねーけど、相当歩いてここに来たぜ。壁にぶつかったのもここだけだし」
 会話の勢いで思わず振り向くと、視線を落とした櫂の後ろ姿が見えた。向こうからは見えないと分かってはいても、やはり不思議な気分だった。その背中に触れられそうな気がするのに、伸ばした指先は堅い壁に阻まれる。
 不意に、壁から櫂の背が離れた。
「……最初は、どこかに出口が無いかと思った。次はどうにか壁を壊せないかと思った。そうしているうちに、あいつがファイトを始めて……俺は、そういうことを全部やめた」
 さっき三和がしたように、櫂の手が壁に触れる。
「あいつは壁を壊そうとしてる。……それだけなんだ」
「櫂……」
 櫂が泣いていた。それは櫂が、三和には絶対見せないはずの顔だった。それを見ることができたのは、櫂から三和の顔が見えていないからだ。
 衝動的に壁を殴ろうとして――できなかった。
(俺が見てるって知ったら、こいつは)
 ためらう三和の前で、櫂が涙をぬぐう。櫂が落ち着きを取り戻したのを確認して、三和は低く告げた。
「……おい櫂。ちょっと離れてろ。やっぱりその壁殴るから」
「……っ!」
「ふっ!」
 櫂の返事は待たなかった。さすがに見えていたことはバレた気がするけれど――それでも櫂に確信は持てない。それで十分だ。繰り返し殴りつけていると、櫂がたまらずに叫ぶ。
「もうやめろ、三和!」
「お前だってやったんだろ? 俺にだってっ、試させろよな!」
「三和……!」
 それ以上櫂は何も言わなかった。ただ苦しげに、こちらを見つめている。
 何度やっても、壁はびくともしなかった。手は痛いし疲れるし、ずっとこんなことを続けることはできないという思いが、三和の体を少しずつ侵食していく。
「……ほんっと……かってーなぁこれ……」
 こんな方法で壊せる壁じゃないという思いが、打ち消せなくなっていく。
 何度目かの殴打は、力なく壁に接触しただけで、それ以上その手が上がることはなかった。
(そりゃあ、泣きたくなるよな)
 せりあがる嗚咽を、三和は必死で噛み殺す。櫂からは見えていないはずで、どうせ見えないのなら号泣するのもいいかもしれない。けれど、三和から見える櫂はこちらを見つめたままで、やっぱりなりふり構わないでいるのは難しかった。
「……櫂、今、俺のこと見えてないと思うけどさ」
「……」
「俺、ずっとここにいるから。この壁が消えるまで」
「………」
「あいつは、壊してくれるはずだろ?」
 櫂は答えなかった。櫂にも分からないのだ。あんな力で、望む未来が手に入るのか。
(だって、あいつがあの力を選んだのは、未来に絶望したからなんだ……)
 だったらこんなこと言わなければよかっただろうか――そう思ってふと、櫂が壊そうとした壁の向こうを思う。
 「あいつ」は、壊してくれるかもしれない。
(櫂が、アイチと、会えたら)
 そう思った瞬間、櫂が壁を殴った。
「……っ」
「お前も忘れるな」
 泣きそうなのかと思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。
「見えているくせに忘れるな。馬鹿」
 それはつまり、俺の存在を忘れるな、ということか。
「……お前、心でも読んだ?」
 あの櫂に、そしてアイチに願掛けしてしまったことを見透かされた気がして、三和はそう言った。
「そんな特殊能力は無い」
「いや、絶対あるって」
「無い」
「取り付く島もねーな」
 軽口をたたいて、やっぱり三和は壁の方を向いていることにした。櫂の視線はそれなりに三和の位置をつかんでいて、これなら問題は無さそうだった。
「あいつのファイト、俺も見えっかな?」
「そのうち分かるだろう。どうせすぐに次が来る」
「それもそうか」
 多分それ俺が手を回すんじゃないかな、というのは見れば分かるだろうから三和は言わないことにした。ここでヘソを曲げられてはたまったものではない。なにせ二人きりだ。
 櫂はずっと、一人きりだった。
(だからかな。すっげー元気だな、お前)
 まだ大丈夫、きっと大丈夫。
「……っていうかさっきから普通に視線があう気がするんだけど」
「見えているからな」
「……!? いつからだよ!?」
「さっきだ」
「だからいつ!」
「忘れた」
 これは絶対に泣き顔を見られた。そう確信して三和は頭を抱える。
「俺は何も見てないぞ」
「いやそれ見てるって言ってる……あーもう、そこらへんからだな、わかった」
「……お前は壁を壊したんだ。少なくとも一枚。俺からはそう見えた」
「え?」
「お前が痛い思いしたのは、無駄じゃなかったんだ」
「……そっか」
 そんなことを言われたら、また泣けてくる。そう思ったら、櫂がそっぽを向いた。見ないふりをしているのだろう。さっきもそうしてくれればよかったのに、そうしなかったのは――心配してくれていたのだろうか。
(……止まんねぇ……)
 結局また壁越しに背中合わせになりながら、しばらく三和は泣いていた。
 壁越しのはずなのに、背中がほんのりと温かい気がする。
 壁は無くせると、そう思える温度だった。


+++

非現実世界で触覚聴覚視覚を強調するというのはなかなかに矛盾のような気もしながら、でもそれなりにこだわって書きました。
櫂くんと三和くんがお互いを視認できるのは本人が光ってるからです。言わずもがな元ネタはCCさくらです。
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