リスペクト公式、と言いつつBL・GL妄想上等の色々無節操なのでカオス注意。
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見つめ合うと素直におしゃべりできない櫂トシキ(17)
櫂くんとアイチで完結編。リンクジョーカー編最終回お疲れ様でした!最終回見た私の結論は、「全然違うけどだいたいあってた」でした。進化し続ける公式と違って私はあんまりエネルギーないので、この話は綺麗に完結します(笑)
櫂くんのЯ理由の考察なども入ってます。本編では流れ上他の要素に埋もれてるけど、ギミックとしては間違ってないだろうというのが私の結論です。本編では櫂くんアクセルの話しかしてないんですよね。それしか自覚してないんだと思うんですけど。これはブレーキが壊れた理由の話です。
そんな感じで、どうぞ読んでってください!
■これまでのお話
1.櫂VSキョウ!
2.戦いの果てに…
3.星に願いを
4.仲間
5.友達


 綿雲の浮かぶ青空からは穏やかな日差しが差して、植え込みからすらりと伸びた樹木を照らしている。穏やかな気配に満ちる午後の公園。モノトーンの私服に身を包んだ少年は、池の前に見慣れた少年が腰を下ろしているのを見つけて、その背後で足を止めた。
 いるかもしれないとは思ったけれど、本当にいるとは思わなかった。
「……こんなところで何してるんだ、アイチ」
 微妙な動揺を押し隠しながら、いつもの代わり映えしないセリフで声をかける。
 かけられた声にかすかに驚いた後、水面(みなも)に映る自分を見つめたままアイチは微笑んだ。
「ここでよく、櫂くんが声をかけてくれたなって思って」
「まんまと引っかかったわけか」
 日常会話のテンポで、櫂がそうコメントする。
「あの、櫂くん――」
 顔を見て話をしようと、アイチが立ち上がる。
「っ、待て」
「えっ」
 何を止められたのかよく分からずアイチが振り向いてしまうと、櫂はアイチを見つめて微妙な顔をした後、くるりと背を向けた。
「櫂くん?」
 櫂はなにごとか考えるような間の後、やおらポケットから携帯を取り出してボタンを押すと、それを耳にあてる。
 数秒後、アイチのポケットから着信メロディが流れてくる。
「え?」
 鳴っているポケットと櫂を交互に見詰めて、アイチは携帯を取り出す。ディスプレイに表示された名前は、もちろん「櫂トシキ」だ。
 通話ボタンを押して、アイチが電話に出る。
「あの、櫂くん?」
『ああ』
 電話がつながったのを確認してか、櫂が歩き出した。釣られて一歩だけ前に踏み出して、アイチは携帯から聞こえてくる声に答える。
「えっと、僕、櫂くんと話がしたくて」
『話してるだろう』
 やりとりする間にも、櫂は遠ざかっていく。
「でも、電話じゃなくても、えっと」
 櫂の意図が分からずにアイチが困惑していると、いつも昼寝しているベンチの前で櫂が立ち止まる。アイチから見えるのは櫂の背中。
『アイチ、さっきみたいに座ってろ。俺はここにいる』
「え? う、うん」
 アイチはとりあえず言われた通りに腰を下ろす。櫂もまた、いつものベンチに腰かけたようだった。
 完全に普通の電話状態で、櫂の言葉を待つ。
 いくぶんか言いにくそうにして、櫂が言った。
『これで勘弁してくれ。お前が見てると思ったら、またおかしなこと口走りそうだ』
 ゆっくりと、言葉の意味を咀嚼して、アイチは思わず小さく笑ってしまった。よっぽど会話が苦手らしいことも、それを白状してくれたことも、それでもこんな風に話そうとしてくれたことも、なんだか全部が温かかった。
「……うん、わかった」
 不思議なほど自然に、そう答えることができた。櫂が開いた距離が、世界の広がりに変わっていく。
 アイチの背中を遠巻きに見つめながら、櫂は言葉を探す。
『何から話せばいいんだろうな……』
 そう呟いた櫂に、アイチは穏やかに返した。
「……なんでもいいよ?」
 アイチのほうには、具体的に話したいことは思いつかなかった。ファイトしたあの日に、櫂に伝えたいことは全部ぶつけてしまっていて、今更新たに言いたいこともなくて。
 あのときはこちらから仕掛けてばかりで、櫂はずっと防戦一方だった。自分が聞きたいことじゃなくて、櫂が言いたいことを聞こうとする、こんな余裕は持てなかったなと、アイチは思い至る。
(この間は僕のターン。今日が、君のターンなんだ)
『……お前以外からロイヤルパラディン達の記憶が消えていたときのことを、覚えているか?』
 少し時間を遡る話に、その頃を思い出しながらアイチは相槌を打つ。
「うん」
『あの時……本当の記憶が封じられている間、俺はお前のことを、ライバルだと思っていた』
 櫂が言わんとすることがまだ掴めずに、アイチは沈黙で先を促す。
『だが、記憶を取り戻したとき、そこには俺がお前を導いた記憶があった。……それで俺は後悔した。デッキが入れ替えられたばかりのお前を、一人で置いていってしまったことを』

“俺は俺の道を通って奴に会いに行く。お前はお前の道を行け”

(あの言葉は、そういうことだったんだ……)
 確かに置いて行かれて戸惑ったけれど、あれも記憶が書き換えられた影響だったらしい。
「でも、前にも言ったけど、櫂くんはちゃんと僕に道を示してくれてたよ」
『……そっちじゃない』
「え?」
『後悔した矢先に、お前は俺を超えて行った。お前は俺に道を示すほどに成長していた。石田ナオキのこともそうだ。お前はもう立派な先導者だった。……おかしな話だ、偽りの記憶の俺は、それをこそ待ち望んでいたはずなのに……記憶を取り戻した俺は、こう思ったんだ。お前にはもう、俺は要らないんだと』
「……!」
 元の記憶を取り戻したあの時、すべてが元通りとはいかなかったのはアイチも同じだった。ゴールドパラディン達と共に戦った絆は消せなくて、ロイヤルパラディンを手放した。
 あの時、櫂もまた喪失を味わっていたことを、アイチは初めて知った。
 しかも櫂は――その喪失を、自分で選ぶことができなかった。
『お前は宮地に進学して、それこそライバルとして戦う舞台は整っていたのに、俺は多分、心のどこかで迷い続けていたんだ。偽りになったはずのお前のライバルと、もう要らなくなったお前の先導者との間で』
「櫂くん……」
『挙句決勝でのお前とレンのファイトを見て、どうしようもない壁を感じて……あとは、お前の知っている通りだ』
 そう言って櫂は話を締めくくる。
 櫂がヴァンガードに縋って、強引に無くそうとした心の隙。それは導くべきものとしてのアイチを失った穴だった。
 それを知ったアイチに、言うべき言葉は自然とこみ上げてくる。
「……櫂くん、あのね。僕が宮地学園に進学したのは、君と戦いたかったからなんだ」
『ああ』
 櫂を動揺させた事実を確定するだけの内容のはずなのに、頷く櫂の声は、今までに聞いたことがないくらいに優しい。
「だから、カードファイト部も作ったよ。その、最初は部員も集まらなくて、生徒会にもなかなか認めてもらえなくて、結構大変だったんだけど」
『ああ、知ってる』
「でも、皆が助けてくれて、ちゃんと部として成立したんだ。その全部が、すごく、楽しくて」
『……お前らしいな』
 端的な言葉に秘められた賞賛が、アイチの中に響く。
「……櫂くんのお蔭だよ」
 その思いの深さに、アイチの声が震えた。
「君に胸を張れるようにって、そう思ったから、頑張れたんだ。だから……っ」
 こみ上げた嗚咽に、言葉が途切れる。これ以上、何を続けたらいいのかは分からなかった。
 ロイヤルパラディンを手放した選択の裏にあったもの。それが今ここにはあった。あのとき自分は――自分を導く櫂の手を、自ら離していたのだ。
 あのときは、ロイヤルパラディンを失うことが寂しかった。そして今は、櫂に自分を失わせることが寂しい。
 とめどなく零れる涙を、アイチはぬぐい続ける。
「……、……っ」
 それでもやはり、後戻りすることはできなかった。それが実感として湧いてくるにつれて、アイチの嗚咽が収まってくる。
『……落ち着いたか』
「? ……うん」
 まだ少し赤い目をこすって、アイチは櫂に頷く。今の話を聞いて櫂がどう思ったのか、アイチにはよく分からなかった。
 少しの間があって、櫂が言った。
『アイチ、立ってこっちを向け』
「え?」
 言われた通りに振り返ると、櫂も立ち上がってこちらを見ていた。
 アイチが思ったよりも、櫂はずっと落ち着いた表情をしている。
『……今のお前に、俺は負けたくない』
 静かな決意に満ちた声だった。
 あたりの空気が、不思議と透明感を増す。
 その中心にいるのは間違いなく櫂だ。
 櫂が携帯を操作して、アイチの耳元で通話の切れる音がする。
 櫂がこちらに向かって歩いてくる。
 アイチの目の前で立ち止まって、櫂が言った。

「――だから俺は、ヴァンガードはやめない」

「……っ!」
 櫂が笑っていた。揺るぎない、自信と誇りに満ちた笑顔で。
 いつか憧れた、あの日と同じ笑顔で。
「来年のVF甲子園、お前と当たるのを楽しみにしている」
「うん! 僕も絶対、絶対勝ちあがるよ」
「ああ。約束だ」
 風が吹き抜ける。
 新しい風が。
 その風は、すべてを新しく塗り替える風だった。


 * * *


 春の福原高校。
「次、入部志望動機は」
 事務的にそう尋ねたテツに、真っ正直な声が答える。
「復讐したい奴がいる! あの野郎結局復活したらしいからな!! 今度こそ俺様がぶっとばして目にもの見せてやる!」
 そう叫んだ銀髪の少年に、レンは楽しそうに笑った。
「今年の新入部員は元気ですねえ」


 * * *


 そして約束の時は来る。


「決勝、後江高校、櫂トシキ対、宮地学園、先導アイチ!」
 歓声の中で、二人のファイターが対峙する。
 向かい合った櫂に、アイチがこう言った。
「あのね櫂くん。言ってなかったと思うけど、櫂くんが倒れちゃったあのファイト、決着はついてないんだ。櫂くんは最後に、ヒールトリガーを引いていたから」
 今こそ告げる時だと口にしたアイチに、櫂が目を見開く。
「だからきっとこれが、僕と君が初めてする本気のファイトだよ」
 櫂はその言葉に、高揚した笑顔で答える。アイチもまた、同じ笑顔で応えた。
 審判がすっと手を天へと向ける。
「試合、開始!」

「「スタンドアップ!」」
「ザ!」
「「ヴァンガード!!」」


 fin.
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