リスペクト公式、と言いつつBL・GL妄想上等の色々無節操なのでカオス注意。
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これの完成版、前半にも修正ありです。
フ ル フ ァ イ ト 書 き ま し た \(^q^)/途中挫折して4か月かかった…。
相変わらずLOV通信対戦でBランクをうろうろする程度の実力なので戦術として適当かどうかあまり自信が無い上、正直「読むほうがめんどいだろこれ」という感じですが、なかなかに端折りづらく。努力の方向音痴な気はしてる。
櫂くんとスイコさんがLJおそろに燃えたあの頃を思い出して書きました(笑)
タクトのセリフは是非高垣彩陽さんの演技を脳内補完して頂きたいです。文字で表現するの無理そうだったので、地の文書いたりはしましたが全部は描写できなくて…あの演技は天下一品だと思います。

「遅いわね……」
 手にしたカップをソーサーに置いて、スイコは呟いた。テーブルにあるもう二つのカップは手つかずのままで、注がれたコーヒーはすっかり冷めてしまっている。タクトと櫂が書斎に消えてから、長話と言うにも長すぎる時間が経過していた。
(様子を見に行ったほうがいいかしら)
 スイコが席を立ったちょうどそのとき、件のタクトが姿を現した。
「話は終わったの? 櫂トシキの姿が見えないけれど……」
 俯くようにしていたタクトが、スイコを振り返る。いつもの穏やかな顔で、タクトが言った。
「それなんですが、疲れがたまっていたのか彼が倒れてしまって。すみませんが、少しベッドを貸してあげてくれませんか?」
「え? ええ……」
 普段通りのタクトの表情からは、櫂への心配のようなものは微塵も感じられない。
(タクト?)
 少し前なら普段通りと言えたその淡泊さは、しかし最近のタクトの印象に重なりきらない。違和感に戸惑いながらも、スイコはひとまず彼の指示に従う。メイド達を連れて書斎に入ると、タクトの言う通り、気を失った櫂が倒れていた。ぐったりとした櫂の顔からは血の気が引いていて、生気がほとんど消えてしまっている。ゲストルームへと運ばれる間にも、櫂が目を覚ます気配はなかった。ただならぬものを感じて、スイコは深刻な表情でその様子を見つめる。
(何があったの?)
 櫂がこの立凪を訪ねてくるなどと珍しいこともあるものだと思ったけれど、タクトはその訪問を予想していたようだった。相変わらずヴァンガードのことしか頭になさそうな顔の櫂に、ついレンのように絡んでみたら案の定冷たくあしらわれたけれど――あのとき彼の頭を占領していたのは、いつもとは毛色の違う問題だったのだろうか。彼女たちに櫂の介抱を任せて、スイコはタクトの元へと向かう。
「何が起こっているの?」
 不審な状況を訝しんで、厳しい目で問いかけたスイコに、その視線を受け流しながら、面白がるようにタクトは答える。
「君はもう少し従順な子かと思っていたけれど、そんな目もできるんですね」
「タクト……?」
 問われた名に、タクトは――タクトの顔をした者は答えない。
「いいでしょう、教えてあげます。何故彼がここを訪れたのか、そして彼に伝えたこと、彼に起こったこと、全てね」
 瞳に浮かぶ愉悦の色。それは、スイコがどこにも逃れようがないことを知っている主(あるじ)の恍惚だった。

 * * *

「……ということで、彼は晴れてリバースファイター達の始祖になったというわけです」
 にっこりと、めでたしめでたしとでも言うようにタクト――いや、虚無の代理人、エージェントは笑った。タクトを含め自分たちが備えていた相手によるタクトの乗っ取り、櫂トシキの呪縛。予想だにしない展開に、スイコは言葉を失う。
「始祖へのリバースは彼の体には少し負担が大きかったようですが、心配はいりません。リンクジョーカーを使いさえすれば、ファイター達のエネルギーは彼にも流れ込むことになる。……いいえ、違いますね、リンクジョーカーを使わなければ、彼はもう立ち上がることさえできない」
 狂喜の滲む声で朗々と謳いあげられる、絶望の未来予想図。歪んだ笑顔で、エージェントはスイコに語りかける。
「僕はこれから立凪タクトとして、櫂トシキを要(かなめ)に地球のファイター全てをリバースさせます。……君も、手伝ってくれますね?」
 惑星クレイと地球の未来を守るため、来たるべきヴォイドとの対決に備えていたタクト。そのためにウルトラレアの三人はタクトにコールされ、役目に必要な記憶以外を封じられていた。
 スイコにとって、タクトの命令は絶対だった。どうしようもないことを深く考えても仕方ないと、どこか健気に明るく振舞っていたレッカや、やり方の横暴さに反発を持ち、結果的に単なる歯車以上の働きさえして見せたコーリンとは違う。どんな資質の違いかは分からないけれど、スイコは当然のように、タクトから与えられた運命を受け入れた。目の前のエージェントがタクトだというのなら、確かにスイコなら――かつてのスイコなら、タクトの反転さえも呑み込んだかもしれなかった。
 けれど――
「……お断りするわ」
 俯いたまま、低い声でスイコは宣言する。
 きっ、と顔をあげると、覚悟を決めてスイコはデッキを構える。
「へえ……?」
 面白がるように呟いたエージェントに、怯みは感じなかった。
「全てはカードの導きのままに。私に協力させたいなら、ファイトで勝ってからにしてもらうわ」
 与えられた使命を執行するだけの機械でいられた昔とは違う。PSYクオリア能力者を探してたくさんのファイター達を見てきた。その中でレッカは友達に憧れ、コーリンは先導アイチに惹かれた。先導者を選ぶ戦いを越えて、タクトは三人に立凪の姓を与え、普通の学生としての生活を与えてくれた。それは能力者を監視する役目の一部ではあったけれど、それだけではないことくらいスイコも理解はしていた。そうして福原高校ヴァンガード部で、束の間の平和な時間を過ごしたせいもあるのだろう。
(戦ってみたくなった。自分の運命を自分で勝ち取るために。レンくんが、アサカさんが、テツくんが、アイチくんが……櫂トシキが、そうしていたように)
 スイコが睨みつける先で、エージェントは愉しげに嗤う。
「いいでしょう。ちょうど面白いデッキが誕生したところです。きっと君に似合いますよ」
「言ったでしょう? それはカードで証明して頂戴」
「もちろん、そのつもりですよ」
 エージェントが手のひらをかざすと、赤と黒のファイトテーブルが浮き上がってくる。
 自らの運命を託したデッキを、そのフィールドにセットした。
(あなた達はいつも、こんな風に戦っていたの……)
 相手の力を試すためだけのファイトとは違う。己の存在を懸けて戦えばこそ、奥底から湧きあがる高揚感。それを今は、悠長に味わうわけにはいかないけれど。

「「スタンドアップ! ヴァンガード!」」
「《希望の子(ホープ・チャイルド) トゥルエル》!」
「《マイクロホール・ドラコキッド》」

 ヴァンガードとして惑星クレイに降り立つイメージ。スイコはそれを、今初めて知ったのかもしれなかった。

 * * *

「それが、リンクジョーカー?」
「ええ。そしてこのデッキは、櫂トシキのリバースによって生まれた闇の炎。……心当たりはありませんか?」
「さあ、どうかしらね」
 挑発を受け流して、スイコはデッキへと手を伸ばす。
「ドロー。《真紅の決意(クリムゾン・マインド) バルク》に、ライド! トゥルエルは後ろへ。ターンエンド」
「僕のターン。ドロー、《グラビティボール・ドラゴン》にライド! スキル発動。……ふふ」
 エージェントは笑みを浮かべて、デッキトップの七枚から探し出した一枚をスイコへと示して見せる。グレード2、《グラビティコラプス・ドラゴン》。
「グラビティボールでバルクにアタック」
「ノーガード」
 エージェントのチェックは《魔爪の星輝兵(スターベイダー) ランタン》。スイコのダメージゾーンに《恋の守護者(バトルキューピッド) ノキエル》が落ちる。
「ターンエンド」
「私のターン。スタンド・アンド・ドロー、《記録者(コアメモリー) アルマロス 》にライド! トゥルエルのブースト、アルマロスで、ヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
「ドライブチェック。クリティカルトリガー!」
 《懲罰の守護天使(ホットショット・セレスティアル) シェミハザ》によって、二枚のカードがタクトのダメージゾーンに並んだ。
「ターンエンド」
「僕のターン。さあ、君の希望を閉ざして見せましょう。《グラビティコラプス・ドラゴン》に、ライド! グラビティコラプス・ドラゴンの効果発動、《希望の子 トゥルエル》を、呪縛(ロック)!」
 黒輪の力によってトゥルエルが呪縛へと閉じ込められる。目の当たりにした力に、スイコは目を見開いた。
「これがリンクジョーカーの能力。呪縛(ロック)されたユニットは移動も退却もできず、戦いに参加することはできない」
 険しい表情で、スイコはタクトをにらみつける。
「恐怖に声も出ませんか?」
 絡みつくようなエージェントの揶揄。背筋をじわりと這い登る悪寒は確かにある。呪縛されたユニットを通じてファイターの魂はリンクジョーカーとつながるという、これがその感覚なのだろう。今のスイコには、無言で耐えることしかできない。
「《凶爪の星輝兵 ニオブ》、《魔爪の星輝兵 ランタン》をコール。グラビティコラプス・ドラゴン、ヴァンガードにアタック!」
「ガード!」
「ドライブチェック、クリティカルトリガー。パワー、クリティカル共にニオブへ。ランタンのブースト、ニオブでアタック!」
「ノーガード、ダメージチェック。――ドロートリガー!」
 ダメージゾーンに落ちたのは《真紅の決意 バルク》、《フィーバーセラピー・ナース》。フィーバーセラピーのトリガーによって、スイコは更に一枚をドローする。ダメージは3対2。
「ターンエンド」
「私のターン、スタンド・アンド・ドロー! 青き羽の天使よ、その微笑と力強さをもって病魔を倒せ! 《神託の守護天使(プロフェシー・セレスティアル) レミエル》に、ライド! コール!」
 トゥルエルの呪縛は致命傷ではない。左列に《ミリオンレイ・ペガサス》、《サウンザンドレイ・ペガサス》、右列に《天罰の守護天使(ワイルドショット・セレスティアル) ラグエル》をコールして、スイコは戦線を調える。
「ラグエル、ニオブにアタック!」
「ガード」
「レミエルで、ヴァンガードにアタック!」
「ガード」
「ドライブチェック。一枚目、二枚目、ドロートリガー。効果はミリオンレイに。サウザンドレイのブースト、ミリオンレイでヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
 エージェントのダメージゾーンに《虚ろの双刃 バイナリスター》が落ちる。ダメージは3対3。
「ターンエンド」
 エンドフェイズ、呪縛されていたトゥルエルが解放される。それと同時に体がふっと軽くなるのを感じて、スイコはそっと息をつく。
「残念、あまり効果は無かったようですね」
「……っ!」
 しかしそれを見透かしたように、エージェントはわざとらしく肩をすくめて見せる。
「ですが、安心するのはまだ早いのではありませんか? 極限にして始原、全てはゼロから始まる。ライド! 《星輝兵 インフィニットゼロ・ドラゴン》!」
 リンクジョーカーのブレイクライドユニット。今はまだ本領を発揮することはできないはずのそれは、けれど不気味な存在感でそこにある。
「インフィニットゼロで、ヴァンガードにアタック!」
「ガード!」
「ドライブチェック。一枚目、二枚目、ドロートリガー。効果はニオブへ。ランタンのブーストをつけて、ニオブでヴァンガードにアタック!」
「っ、ガード!」
 ブレイクライドの発動とダメージの軽減どちらを取るか。まだ相手のダメージは3、今ここで差が開くわけにはいかないと、スイコはガードを切る。
「ダメージは与えられませんでしたか。ターンエンド」
「私のターン。ドロー。ラグエルで、ニオブにアタック!」
「ガード」
「トゥルエルのブースト、レミエルで、ヴァンガードにアタック!」
「ガード」
「ドライブチェック、一枚目……クリティカルトリガー! 効果はすべてミリオンレイに。二枚目、トリガーなし。サウザンドレイの支援をつけて、ミリオンレイでヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
 エージェントのダメージゾーンに二枚のカードが落ちる。
「ターンエンド」
 ダメージは5まで追いつめた。けれど次のターン、ブレイクライドの発動が待っている可能性が高い。一瞬の気のゆるみも許されずに、スイコは息を詰める。
「僕のターン。スタンド・アンド・ドロー」
 その様子を嘲笑うかのように、エージェントは悠然とターンを開始する。
「感じますか? このユニットの気配を。見せてあげましょう。闇の炎より生まれし闇の竜よ、その逆鱗に触れし者に終わらぬ悪夢を! ブレイクライド! シュバルツシルト・ドラゴン……!」
「……!」
 星がブラックホールに変わる限界半径。全てを呑み込む深淵を司る機械竜が、スイコの前にその全貌を表す。
「インフィニットゼロのブレイクライドスキル! ミリオンレイ、トゥルエルを、呪縛(ロック)!」
「あっ……!」
 リアガードを二体封じられ、更に強い恐怖が――いや、衝動がスイコを襲う。
(今のは、何……?)
「相手リアガード二体の呪縛により、ニオブ、ランタンはパワーアップ。シュバルツシルトのスキル。デッキのトップからカードを五枚見て、シュバルツシルトを一枚手札に加える」
 ひらりと示されたシュバルツシルトのカード。エージェントはそれを手札に加えながら続ける。
「出番はもう少し先になりそうですね。気分はいかがですか?」
「……何の、ことかしら?」
 頬を伝う冷ややかな汗を感じながら、スイコはそう絞り出す。
「君は呪縛を通じてリンクジョーカーとつながった。湧き上がる力を感じませんか? それは君の信念に反しないはずだ。そう……雀ヶ森レンに敗北した櫂トシキ、君が彼につきつけたように」
「……!?」
 スイコの意識が過去へと飛んでいく。一年近く前、フーファイタービルで観戦したレンと櫂のファイトへ。それは惑星クレイを導けるPSYクオリア能力者を探すスイコにとっては、候補者である雀ヶ森レンの力の完成度を測るファイトで――

“私達には、彼の力が必要なの”
“その力がレンを変えてしまったとしてもか!”
“力の結果が善か悪かを、私たちは問わない。力あるものにしかできないことがあるのよ”

 ――櫂にとっては、力に魅せられて変わってしまった友人の目を覚まさせるためのファイトだった。彼には彼の、スイコにはスイコの譲れない目的があって、それを交した結果、スイコは彼に引導を渡した。
「それが、なんだって言うの……?」
「分かりませんか? 彼はようやく君の言葉を受け入れようとしているんですよ。力の結果が善か悪かを問わない……強くなるためならどんなことでもしてみせると。そう、例え信念を殺してでもね」
「え……?」
「雀ヶ森レンだけじゃない。蒼龍レオンにも彼は敗れた。彼は決して無敵のファイターではありません。そんな自分に不満を持ち、常に自分の器を破壊して更なる強さを目指す……これほどリンクジョーカーにふさわしいファイターは他にありません。だから僕は手を貸してあげたんですよ、彼に限界を作っていた彼の信念を、僕が壊してあげたんです……あははははは!! あっははははは!!!」
 そこにあるのは陶酔と狂気、エージェントの高笑いが響き渡る。言葉の意味が頭に入ってこない。スイコはただ呆然と立ち尽くす。
「ガンマバースト・フェンリルをコール。シュバルツシルトで、レミエルにアタック!」
「っ、ガード!」
「ドライブチェック。ゲット、ヒールトリガー! ダメージを一枚回復。パワーはガンマバーストに。ガンマバースト・フェンリルで、レミエルにアタック!」
「ラグエルで、インターセプト! ガード!」
「ランタンの支援をつけたニオブで、レミエルにアタック! パワー29000!」
「ノーガード! くっ……」
 叩きつけられた衝撃に、スイコがたたらを踏む。
「ターンエンド」
 余裕を見せつけるようにエージェントは笑った。
「私のターン……! 《看護師長(チーフナース) シャムシャエル》に、ブレイクライド! レミエルのブレイクライドスキル。ダメージゾーンからミリオンレイを手札に。響け、愛の歌……エターナル・ソング・フォー・インジュレッド!」
 戦い疲れた戦士達の傷を癒す永遠(とわ)の歌。ブレイクライド効果とスキルによって、シャムシャエルのパワーが22000になる。さらにサウザンドレイは9000に。けれど――
「ミリオンレイが呪縛されていなければ、ミリオンレイと共にパワーアップして戦えたサウザンドレイも、孤立したままではなんにもなりませんね」
「……っ! ――ミリオンレイ、サウザンドレイを、コール!」
 スイコは反論できないまま、空いている右列に同じようにペガサスを二体コールする。
「シャムシャエルで、ヴァンガードにアタック! シャムシャエルのスキル発動」
 手札のアルマロスを、ダメージゾーンのクリティカルヒット・エンジェルと入れ替える。
「尽きることのない愛の歌を聴きなさい。エターナル・ソング・フォー……っ」

“その力がレンを変えてしまったとしてもか!”
“力になれず、すまなかったな……”

 レンに、レオンに、敗北したときの櫂の姿が、スイコの脳裏をよぎる。

“彼は決して無敵のファイターではありません。そんな自分に不満を持ち、常に自分の器を破壊して更なる強さを目指す”

(そうかもしれない、けど――)

“これほどリンクジョーカーにふさわしいファイターは他にありません”

(――違う!)
「――インジュレッド!」
 シャムシャエル、ミリオンレイ、サウザンドレイはさらにパワーをあげる。シャムシャエルはパワー24000。
(あなたは、傷ついたの。友を止められない己の無力に、仲間のクランを取り戻せない、己の弱さに……!)
「完全ガード」
「っ!」
 渾身の一撃は無情に阻まれる。スイコは目を見開いた。

 ――その傷があなたを、全てのファイター達の敵へと変えるというの――

「……ツインドライブチェック」
 静かな声でチェックを宣言する。引いたのは《真紅の情熱 バルク》、《天罰の守護天使 ラグエル》、トリガーはない。
「サウザンドレイのブースト、ミリオンレイで、ヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
 余裕の笑みでエージェントが攻撃を通す。
「……ターンエンド」
 ミリオンレイ、トゥルエルが呪縛から解き放たれる。けれどスイコの心は軽くはならなかった。ダメージは5対4。ダメージ上はスイコのほうがリードしていても、優勢とは言えない。
「僕のターン、スタンド・アンド・ドロー。ランタンを二体コール。さあ……見るがいい、シュバルツシルトの本当の力を! 同じ魂を喰らい、闇の竜王となりて破壊の咆哮を放て! リミットブレイク! シュヴァルツシルト・ドラゴン、相手のリアガードを三体……呪縛(ロック)!」
 二体のミリオンレイと、トゥルエルが呪縛へと閉じ込められる。隣接するリアガードを封じられ、ヴァンガードは完全に孤立する。
「シュバルツシルトはパワープラス10000、クリティカルプラス1。ニオブ、ランタンのスキル、それぞれパワープラス6000! ランタンのブーストをつけたガンマバーストで、ヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
 微動だにせず、スイコはそう言った。レミエルがダメージゾーンに落ちる。
「ランタンのブーストをつけたシュバルツシルトで、ヴァンガードにアタック!」
 音もなく顔を上げたスイコは、澄んだ眼差しでエージェントを見据えた。
「ガード! 《盤石の守護天使(アダマンタイン・セレスティアル) アニエル》!」
 ぎりぎりの状況でガードを切るのに、迷いも、恐れも、不思議と感じなかった。ファイトに必要な情報以外、全てをシャットアウトするような感覚。宙に立つ自分を中心に無限の広がりを感じる、どこか心地よい緊張感。
「完全ガードですか、君もなかなか諦めが悪いですね。いいでしょう、ツインドライブチェック。一枚目、二枚目、クリティカルトリガー! 効果はすべてニオブへ。ランタンのブースト、ニオブで、ヴァンガードにアタック! パワー33000!」
「ガード!」
 全ての手札を使い切って、スイコはその一撃も防ぐ。
「ターンエンド」
 エージェントは歌うようにエンドを宣言してみせる。次のターン、スイコに与えられたアタックは一度きり。
「私のターン。スタンド・アンド・ドロー。ダメージゾーンにある《真紅の情熱 バルク》と《フィーバーセラピー・ナース》の効果発動。ヴァンガードにパワープラス6000」
「おやおや」
 涙ぐましいと言わんばかりの声にも、スイコの集中が途切れることは無かった。
「《看護師長 シャムシャエル》で、ヴァンガードにアタック! ――愛の歌を聴きなさい」
 スイコは手札のフィーバー・セラピーナースをダメージゾーンに置くと、裏返ったバルクを手札に加える。シャムシャエルのパワーは18000。
「ガード」
 エージェントのガード合計は30000。ダブルトリガーでも越えられない壁が、スイコの前に立ちはだかる。
「ツインドライブチェック。……ゲット、クリティカルトリガー。効果はすべてシャムシャエルに」
「無駄な足掻きです」
「ターンエンド」
 呪縛が解けてスイコのフィールドが解放される。手札は三枚、インターセプトは二体。
「僕のターン。スタンド・アンド・ドロー」
 エージェントの場にも動きは無い。
「ランタンのブースト、シュバルツシルトでアタック!」
「ガード!」
 スイコは《クリティカルヒット・エンジェル》、《記録者 アルマロス》をガーディアンにコールする。

“その力がレンを変えてしまったとしてもか!”

 まっすぐにスイコを貫いた瞳が、脳裏にリフレインする。
(不思議ね。あなたが負けたところを見たのは、一度ではないのに……あなたが負けるなんて、信じられない私がいる)
「ツインドライブチェック」
(あなたにはいつも驚かされてきた。あなたの強さと勝利への意志が、雀ヶ森レンを、先導アイチを、強さと勝利へと駆り立てたから、惑星クレイの命運を決める二人の能力者は目覚めた。あなたが先導アイチに道を示したから、ヴォイドに立ち向かう惑星クレイの先導者は誕生した。……あなたがいなければ、私達の目的が達成されることは無かったかもしれない)
「ゲット、ドロートリガー。効果はニオブへ。ランタンのブースト、ガンマバースト・フェンリルで、アタック!」
 相手のパワーは18000。次に控えているニオブのラインは21000。手札とインターセプトでガード合計は15000、この攻撃を防いでも、次のアタックは防ぎきれない。
「……ノーガード」
 神をも喰い殺す狼の牙が、スイコを襲う。
「くっ……! ダメージトリガー、チェック!」
 六枚目――《看護師長 シャムシャエル》のカードをダメージゾーンへと置いて、スイコは瞳を閉じる。残っていた手札をテーブルに伏せて、静かに告げた。
「……私の負けね。いいわ、あなたに協力してあげる」
「ありがとうございます!」
 子供の様に無邪気な笑顔で、エージェントは言った。星々のきらめく宇宙が霧散し、立凪の私室が戻ってくる。
「頼りにしていますよ、スイコ。早速ですが、福原高校で雀ヶ森レンをリバースさせてくれませんか? 彼の力、ぜひとも欲しいんです」
「お安い御用よ」
 エージェントに応えて目を開けたスイコの目元から、涙が伝うように赤い文様が浮かび上がる。
「この力の素晴らしさ、私も彼に知ってほしいの」
 薄い笑みを浮かべて示したデッキトップには、さっきまでエージェントが使っていたシュバルツシルト・ドラゴンがある。従うべきカードを選んだスイコに、もう迷いは無かった。

 * * *


 協力はしてあげるけど……油断しないことね、タクト。彼はきっと、私達の手には余る。先導アイチや雀ヶ森レンのように行儀のいい歯車にはなってくれないわ。

「このデッキ、リンクジョーカーでファイトすることに心から喜びを感じる。何故なら、あなたを倒すことができるから!」

 櫂トシキ。使命に誰より忠実だった私でさえ、あなた達の……あなたのファイトには湧き上がる想いがあった。同じだけの熱量を返したくなるまっすぐな情熱。レンくんと二人、互いへの想いはすれ違ったまま、衝動に身を任せて戦う姿を哀しいと思いながら、痛みさえ顧みず全身全霊で語り合えるあなた達が羨ましくもあった。

「その顔、一体をロックしたくらいどうってことないとでも言いたそうね。見せてあげる。究極のクラン、リンクジョーカーの真の力をね」

 タクトに従ってあなたの運命に干渉したこと、今更許してなんて言わないわ。最後まで戦い抜いたあなたの誇りに、傷をつけたりしたくないから。
 だけど……そうね。もし許されるなら、あなたと同じ――

「闇の炎より生まれし闇の竜、その逆鱗に触れしものに終わらぬ悪夢を! シュヴァルツシルト・ドラゴンに、ライド!」

 ――終わらぬ悪夢を、私に頂戴。


 fin.


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K玲(仮名)のハンドルで主にヴァンガードSSを投稿しています。日記に載せたのを後日修正転載が基本。
pixivからこのサイトにはリンク等を貼っていません。あんな大手SNSからこんなコアなサイトに直接飛べるようにする勇気無いです\(^o^)/
あと最近転載しているTwitterはpixivのプロフから飛べます。非公開中です。なんでそんなめんどくさいことしてるんだなんて聞かないであげてください。コミュニティごとに人格切り替えないとパニックになるタイプなんだよ!!(明らかに最初にpixivとHP切り離したのが敗因)

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